研究分担者 |
三田村 宗樹 大阪市立大学, 大学院・理学研究科, 教授 (00183632)
奥平 敬元 大阪市立大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (20295679)
篠田 圭司 大阪市立大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (40221296)
西川 禎一 大阪市立大学, 大学院・生活科学研究科, 教授 (60183539)
隅田 祥光 大阪市立大学, 大学院・理学研究科, 特任講師 (80413920)
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研究概要 |
ヒ素汚染地下水の原因物質と涵養源における溶出機構を明らかにすることで,ヒ素汚染地下水の形成初期過程を明らかにすることを目的とした。前年度後半に集中して行ったバングラデシュでの野外調査により,大量の地下水と帯水層堆積物を得ていたが,これらの分析を中心に研究を進めた。 ショナルガオの涵養が活発な集落で20~30mの帯水層の地下水のヒ素濃度は帯状に変化しており,ヒ素の溶出が帯水層堆積物中のヒ素原因物質の分布と強く関係していることが疑われた。また,最高濃度のヒ素汚染地下水出現地点の異なる深度の地下水の分析結果から,ヒ素の溶出は5~10mでもっとも活発であり,15m程度までで主要な溶出過程は終了していた。主成分と希土類の濃度のパターンからヒ素の溶出は塩基性鉱物の溶解に伴っていることが,ヒ素(III)/ヒ素(V)の比は,XANESにより分析された緑泥石のそれとほぼ等しいことからヒ素は緑泥石の調和溶解により溶出していることが明らかになった。また,帯水層堆積物中のヒ素の形態別分析により,多くの深度で80%以上のヒ素はケイ酸塩である難溶態として固定されており,有機物態ヒ素は予想に反してほとんど含まれていないことが明らかになった。また,埋土とヒ素汚染地下水の帯水層,ヒ素汚染地下水の帯水層と下位の汚染のない更新統帯水層の境界付近で酸水酸化鉄に固定されたヒ素が増えることから,これらの深度でのみヒ素含有鉱物の酸化分解に伴ってヒ素が酸水酸化鉄に吸着される現象があるらしいことが明らかになった。ここで観察された結果から,ヒ素汚染地下水は砕屑性ヒ素含有鉱物の化学的風化作用によるものであり,従来仮説である酸水酸化鉄に吸着された鉄の脱着反応はそれに続く二次的現象であると考えられる。さらに,地下水の年代測定により,ヒ素汚染は1970年代にはすでに発生していたが,1980年代以降に拡大した可能性が高いと推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査は全て終了している。涵養の活発な場所で異なる深度の試掘井の水質の季節変動を知るための水質分析が現在進行中である。さらに,表層水中でのヒ素の挙動を追跡するための分析も順調に進んでいる。また,論文もすでに投稿,あるいは現在作成中で,作業はおおむね最終段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
涵養源におけるヒ素汚染地下水の形成機構に関する検証は期間内におおむね終了できると考えている。この調査地域で検証された現象が,ヒ素汚染地下水形成機構としてどの程度一般化できるかを最終年度で検討したい。当初予想していた生物化学作用の関与に関する実験的アプローチがあまりうまくいかなかったことが問題である。今後は,ヒ素の挙動に関する微生物活動の関与をもう少し丁寧に検討する必要がある。また,バングラデシュとベトナムでは,ヒ素がどのような形で河川水中を移動するのかを検討しつつあるが,これらの結果に基づいて,ヒマラヤ山脈から河口にいたる地域でのヒ素のダイナミクスに迫りたい。
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