環境中に低濃度で広く残留するPCBやダイオキシン類等の芳香族化合物の分解・除去には、微生物を用いたバイオレメディエーション(生物的環境浄化)が有望な方法であるが、貧栄養環境下では分解効率が低い。本研究課題では、この問題解決のために、NADH特異的な芳香族化合物分解酵素系をNADPH依存的に改変してシアノバクテリア(ラン藻)に組み込み、光合成系で多量に生産されるNADPHを利用して、貧栄養環境下で効率的な汚染物質分解を行うための基盤技術開発を目的とする。初年度は、以下の成果を得た。 1.ビフェニル代謝物であるDHBPやダイオキシン類である2-CCD水酸化物のセミミクロHPLCによる分離条件を決定した。これにより、非極性代謝物だけでなく極性代謝物の超微量分析の基盤ができた。 2.ビフェニル分解系のフェレドキシン還元酵素BphA4変異体(E175Q/Q177G)の176位にArgを導入することにより、野生型BphA4の92%の触媒効率を持つNADPH特異的BphA4変異体(E175Q/T176R/Q177G)を得た。この変異体は、NADPH依存的芳香族化合物分解系の構築に有用であると考えられる。 3.NADPH特異的なヒトシトクロムP450還元酵素(hCPR)遺伝子とラットシトクロムP450(CYP1A1)遺伝子を導入したシアノバクテリアSynechocystis sp.PCC6803株を作製し、この菌体培養液中でダイオキシン類である2-CCDが水酸化されることを確認した。これにより、貧栄養環境下、シアノバクテリアを用いてダイオキシン類を効率的に分解できる可能性が示唆された。
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