研究概要 |
土壌中など、環境中に低濃度で広く残留している難分解性環境汚染物質であるPCBやダイオキシン類等の芳香族化合物の分解・除去には、微生物を用いたバイオレメディエーション(生物的環境浄化)が有望な方法であるが、貧栄養環境下では分解効率が低い。この問題を解決するために、NADH特異的な芳香族化合物分解代謝系をNADPH依存的に改変してシアノバクテリア(ラン藻)に組み込み、光合成系で多量に生産されるNADPHを利用して貧栄養環境下での効率的な汚染物質分解を行うための基盤技術研究を進めている。H22年度は次の成果を得た。 1.シアノバクテリアSynechocystis PCC6803細胞中でのBphA3への電子供給経路を同定するために大腸菌を用いた遺伝子スクリーニング系を構築し、BphA4への電子供給タンパク遺伝子の同定を開始した。シアノバクテリアの植物型フェレドキシン還元酵素(FNR)がBphA3を還元することを明らかにした。 2.BphA1~A3に加え、Bph B,C,D遺伝子を導入したシアノバクテリア株を作製し、ビフェニルを安息香酸まで分解できることを明らかにした。これにより、バイオレメディエーション分野でのシアノバクテリアの有用性を確認した。 3.NADH結合部位のわずか3残基のアミノ酸残基置換で基質特異性が約20万倍逆転した高活性BphA4変異体(E175C/T176R/Q177G;CRG変異体)の特異性変化を解析し、(1)3残基の置換効果がほぼ独立的であること、(2)E175C変異がNADHによる還元速度を低下させること、(3)T176R変異がNADPHによる還元速度を増加させることを明らかにした。この知見は、酵素分子、特にBphA4と相同性の高いフェレドキシン還元酵素ファミリーのピリジンヌクレオチドに対する基質特異性の人為的変換を行う上で重要である。
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