環境中にある低濃度の難分解性環境汚染物質であるPCBやダイオキシン類等の芳香族化合物の分解・除去には,微生物を用いたバイオレメディエーションが有望である。しかし、貧栄養環境下では分解効率が低い。この問題を解決するために、NADPH特異的に改変した芳香族化合物分解代謝系(BphA1~A4)をシアノバクテリア(ラン藻)に組み込み、光合成系で生産されるNADPHを利用した効率的な汚染物質分解のための基盤研究を進めている。最終年度のH24年度は次の成果を得た。 1. これまでに作製したNADPH特異的高活性型BphA4変異体であるCRG変異体に加えて,CRG変異体を作製する過程で明らかにした3残基の独立的な変異導入効果を応用して,ほぼ予想通りのNADPH特異性を持つ2つの変異体(ARG,QRG変異体)を得ることができた。これによりBphA4の基質特異性の人為的改変・制御が可能であることが実証できた。 2. BphA1~A3に加えて,CRG変異体をBphA3への電子供給体として導入したシアノバクテリア株を作製してビフェニルの水酸化活性を測定したが,活性に大きな改善は見られなかった。シアノバクテリアを用いて効率的にビフェニル分解を行うためには,NADPH特異的BphA4変異体を導入するよりも,シアノバクテリア細胞内のBphA3への電子供給系を利用するほうが現実的であると考えられる。 3. BphA3への電子供給系路を解明するために,遺伝子組換型シアノバクテリア由来フェレドキシン還元酵素(FNR)のアイソザイム2種を作製し,両アイソザイムが同程度のBphA3還元活性を示すことを明らかにした。この結果から,FNRからBphA3への電子供給の可能性が高まった。しかし,電子伝達効率はBphA4の1/100程度にすぎなかった。引き続きFNR以外の電子供給系の探索・同定を進める必要がある。
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