本研究の目的は、ナノ構造に存在する集団核スピンに対し、半古典的な測定ではなく、量子力学的な測定を行い、集団スピンの集団内および集団間エンタングル状態を実証し、集団スピンの集団性を生かした量子情報処理の実現を目指すものである。本申請では便宜的に、集団内エンタングルメントとは、集団内の粒子の量子相関によるエンタングルメント状態で、集団間エンタングルメントとは、二つ以上の集団を光の偏光や電子スピンなどで"接続"したときに、全体として現れるエンタングルメント状態のことを指す。本研究では、集団スピンのスピンスクイーズド状態を実現することによって、集団内エンタングルメントを実証する。さらに、集団スピンを固体中の伝導電子、あるいは、フォントによって接続することによって、集団間エンタングルメントを実証する。エンタングルメントを実証するために用いる核スピンスクイージングは、これまで研究例がなく、従来のNMRの検出感度を大幅に高める技術としての応用が非常に期待でき、量子力学の観測問題という根源的な理解を深めるという点でも重要である。 本年度は特に試料作成および測定系の立ち上げを中心に研究を進めた。ダイヤモンド中のスピンを集団メディアとして利用するため、単結晶ダイヤモンド合成用CVD装置を立ち上げ、走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡による表面観察、SIMSによる組成分析、顕微ラマン分光による結晶格子構造の特定、顕微カソードルミネッセンス測定などを行い、結晶作製条件および品質の向上を図った。また、集団スピンを制御するために必要な高周波照射測定系を立ち上げた。さらに微小領域でのスピン状態の検出のために、極低温強磁場環境下での顕微測定技術の確立も進め、特に50mK、10テスラ程度の環境で実行できる顕微フォトルミネッセンスの検証を進めた。
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