従来型の紫外光応答型アゾベンゼンでは、光異性化に360nmの紫外光を照射する必要があり、酵素が損傷するので遺伝子発現の光制御は困難であった。そこで本年度は生体系で機能する光駆動型分子マシンの構築をめざし、酵素への損傷がほとんど無い400 nm以上の可視光照射のみで可逆的にon-offスイッチング可能な光駆動型DNA エンザイムを設計・合成し、ターゲット遺伝子に緑色蛍光性タンパク質(GFP)を用いて、無細胞タンパク質合成系で遺伝子発現の光制御を行った。光駆動型DNAエンザイムは、catalytic loop部位に相補的なオーバーハングに多数の可視光応答型アゾベンゼンを導入し、これをDNAエンザイムの5’端へ導入することで設計した。こうすることで、アゾベンゼンがtrans体の場合(450 nmの光照射)にはオーバーハングがcatalytic loopに結合するためRNA切断活性がoffになるが、cis体(400 nmの光照射)ではオーバーハングが解離するのでonになる。まずはモデル系でRNA切断を調べたところ、設計通り450 nmの光照射で活性がoff、400 nmでonになることを確認した。そこで実際に無細胞タンパク質合成系で可視光駆動型DNAエンザイムによるGFP発現の光制御を試みた。その結果、450 nmの光照射により光駆動型DNAエンザイムの活性がoffになり、GFPに基づく強い緑色蛍光が観察された。一方400nmの光を照射したところ、光駆動型DNAエンザイムの活性がonになりGFP発現が抑制され、弱い緑色蛍光しか観察されなかった。また可視光応答型アゾベンゼンを導入した光応答性T7プロモーターを用いた場合でも、GFP発現の可視光制御に成功した。このように我々が開発した可視光応答型アゾベンゼンを用いることで、遺伝子発現の光制御が実現できた。
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