本研究では、ヘテロダインレーザドップラーレーザ干渉計と、光熱励振を用いた走査型力顕微鏡を用いている。光熱励振は振動子に直接作用するため、スプリアスの少ない、位相の回転の素直な励振が実現でき、振動子の複数の振動モードを同時に用いるマルチモード検出に極めて適している。本年度は、光学系を見直し、光熱励振の効率の改善を行うと共に、実効バネ定数の高い高次モードにおいても数オングストロームの探針先端振幅が得られるようにした。また、超高真空透過電子顕微鏡内走査型力顕微鏡においては、いままで用いていたグリンレンズの色収差が大きく、光熱励振と計測の両立が難しかった点を改善すべく、光学系の見直しを行った。透過電子顕微鏡内では、電子顕微鏡の磁極や、原子間力顕微鏡のカンチレバーホルダーなど、機械的干渉の生じやすい構造であるが、適切な色消しレンズを選定することにより、光励振と計測の両立を確認している。また、同顕微鏡内で、KBrの観察、シリコンの摩滅摺動、抗力変調による摩滅の低減を確認している。KBrにおいては、探針を濡らす層が存在することを観察している。同光学系を用いた液中原子間力顕微鏡では、零度から100度まで温度可変なものを実現し、0度から40度程度で良好な撮像を確認している。温度域において、厚さ数オングストロームの層の析出が観察されている。今後その同定を行う。エミッションを用いた振動計測においては、各種分子のエンベロープ状の振動を確認している。また、市販シリコンカンチレバーのエミッションで見られた、FIM像の振動が、光熱励振とドップラー計によるカンチレバーの能動励振の結果、機械的振動に依るものでは無い可能性を確認した。数10nm程度の、FIMの振動拡大対象となる振動子として、CNTを金属探針に捕捉して、実験を行った。
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