顕微鏡においては、試料を拡大して観察するだけでなく、観察対象の組成、原子種、状態の分布やその時間変化が観察可能であることが望ましい。本研究では、走査型力顕微鏡の作動原理を見直し、従来の非接触原子間力顕微鏡で用いられている一定周波数シフト制御ではなく、周波数シフトの極小点を制御点とする新しい制御方法を提案した。この方法は、極小点を維持する制御方法であるため、”ボトムトラック法”と呼んだ。前年度までに光学系の低ノイズ化をおこない、シリコンや各種金属試料の高分解能観察を可能にした。本年度は、ボトムトラック法導入の前段階として、試料台に10pmオーダの微小振動をkHzオーダで加え、その周波数でロックイン検出を行うことによって周波数シフトの位置微分値をリアルタイムで求めた。その際、微分値の信号が最強になる様に、カンチレバーの振動振幅、試料台の位置変調の周波数や振幅を変化させた。その結果、シリコンやKBrで良好な周波数の位置微分信号がリアルタイムで得られた。この信号を制御目標値として探針試料間の距離制御に用いた結果、構想通りの、ボトムトラック制御が実現された。シリコンや半田を観察したところ、原子オーダの点列で、極小周波数シフト値が異なる像が得られ、各極小点のヒストグラムを取ったところ、2ピークから4ピークの離散的分を示すことが確認された。この結果から、ボトムトラック制御が安定に作動すること、原子分解能が得られること、周波数シフトの極小値のヒストグラムが異なる原子種に対応している可能性があること、が確認された。
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