研究課題/領域番号 |
21241059
|
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
小長谷 有紀 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (30188750)
|
研究分担者 |
ティムール ダダバエフ 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (10376626)
島村 一平 滋賀県立大学, 人間文化学部, 講師 (20390718)
帯谷 知可 京都大学, 地域研究統合情報センター, 准教授 (30233612)
吉田 世津子 四国学院大学, 社会学部, 教授 (70352086)
|
研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | ユーラシア / 社会主義 / 近代化 / オーラルヒストリー / ナラティブ / プロパガンダ |
研究概要 |
モンゴルについては、社会主義的近代化を代表する典型的な分野として国営農場に焦点をあて、その実態に関する資料を整理して基礎データとして刊行するとともに、農業に関連する口述資料の分析を進めた。とりわけ農業と寺院との親和性、伝統的農業との差異、環境上の問題点などに焦点をあてて、国際会議で発表し、論文を英語、モンゴル語で刊行した。なお、現代においてシャマニズムが再興されている地域もまた国営農場地帯であり、現代の文化現象がいかに社会主義時代の近代化と密接に結びついているかという歴史的関係性があきらかになった。 ウズベキスタンについては、新聞、雑誌、論文等の記事を利用し、モスクワからの政策的まなざしとその現地化を分析し、社会主義的近代化の支配的言説ならびにその現地化や現地での言説との齟齬をあきらかにした。一方、伝統的な都市コミュニティが、支配的な言説に内包された画一的な近代化に対して、柔軟な適応力を発揮したことも、オーラルヒストリーからあきらかになった。 キルギス(クルグスタン)については、農村コミュニティを対象として、イデオロギーに支配されない民間力をナラティブからあきらかにしようと試みた。 以上のように、全体として、オーラルヒストリーを有効に活用することができるとともに、オーラルヒストリー以外の写真、新聞、ポスターなど支配的な公共の言説に関するナラティブ資料も対比的にあつかうことができた。 また、地域間比較としては、カザフスタンとモンゴル、モンゴルとブリヤート・モンゴルについて比較考察した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者と分担者たちはそれぞれ別々に実態調査をおこなっており、各人が個別に研究成果を随時発表しているが、方法論としてのオーラルヒストリーあるいは研究視座としての社会主義的近代化など問題意識を共有しているため、全体として比較考察する材料がでそろってきた。 当初の研究目的として掲げていた、人びとの語りとしての私的な記憶と、公的な写真記録という2種のナラティブを併用するという点については、移行期20年を経た現在、過去の復原そのものがむずかしくなっている。そこで、私的な記憶(語り)についてはペレストロイカ以降に焦点をあて、公的な記憶(物質的記録)については、写真のみならず、ポスター、チラシ、新聞、雑誌などに拡大し、それぞれの記憶媒体の特徴を生かすようにつとめている。その結果、時間差のある2種のナラティブをつなぐ、という方向に変成して研究を推進している。
|
今後の研究の推進方策 |
資料の収集については、社会主義的近代化をめぐる体験者の老齢化により、オーラルヒストリーという方法論そのものの臨界が近づいていることを鑑み、口述資料の収集を厳選して急ぐこととする。と同時にまた、写真、ポスター、チラシ、新聞、雑誌の記事など非口述資料の収集を進めて、有用性の高い学術基礎資料を形成する。 成果の発信については、中央アジアの現代史にオーラルヒストリーを積極的にもちいる国際共同研究がスタートし、口述資料をウェブ上で公開するというプロジェクトが進められつつあるので、本研究からコンテンツを提供する。 また、2014年に開催されるIIASの大型シンポジウムにおいて、ナラティブあるいはオーラルヒストリーのパネルの運営を担当することになった。こうした機会を利用して、国際発信を進める。とりあえず、ビシケクで開催される国際会議はその準備会合にも相当するので、本研究から2名が参加し、国際的な協調のもとに研究を進める。
|