研究課題/領域番号 |
21242002
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
篠田 知和基 広島市立大学, 国際学部, 研究員 (00022260)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神話 / 宗教 / 民族 / 民俗 / 説話 / 中国 / フランス / シベリア |
研究概要 |
世界神話の二元構造を日本、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカ、オセアニア、オリエントなどの諸地域の神話において、とくに異界と常世のテーマにしぼって検討した。そのために各連携研究者および代表者がヨーロッパ、アジア、ほかへ赴き、資料調査、あるいは現地調査、もしくは海外研究者との共同研究をおこない、その成果を8月と12月のシンポジウム、3月の総括研究会で報告、討議をして、3月に刊行した研究書(「異界と常世」)にまとめた。 シンポジウムでは美術史、心理学、言語学からの参加者もあり、多様な角度から検討することができた。対象の地域としては日本、ヨーロッパ、中国のほか、中央アジアについていくつかの報告があり、シベリア、アイヌ、沖縄についても報告された。報告者は台湾、中国、フランス、東ヨーロッパからも参加した。またイランについても4件の報告があったが、政治情勢によって現地調査が困難な状況において、インドにおいてイラン宗教についての古文献をしらべ、またドイツなどのヨーロッパの研究者との連携によって、新発見の資料へアクセスするなど国際的な研究が推進された。そのあたりの問題は3月の総括研究会で報告された。 ただし中国におけるマニ教の信仰の実態をしめす遺跡についての報告を期待した中国人研究者が直前になって渡航許可をとりけされて出席できなかったなどの問題もあった。この種の問題については、ドイツ、フランス、イギリスなどの研究者、研究機関との連携によって、背後から解決する方法も模索された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界神話の二元構造については明暗、光と闇、生と死、罪と罰、愛と憎しみなどについて検討してきた成果をふまえ、当該年度は異界と常世について検討し、日本的な概念である「常世」が世界的な異界概念といかに相違するか、あるいは共通するかについて理解がふかまった。異界といってもとくに死後世界とは限定せず、地上の楽園、あるいは夢の世界などもふくんだ概念とすることの当否も検討され、聖地の概念との関係も追及された。それらを各地の神話伝承に即して検討したほか、言語学から、たとえば未来形の存在と死後世界の観念との関係の指摘など参考になるものがおおかった。 民間伝承、民間宗教などにおける世界観の検討も従来どおりおこなわれたが、図像表現による検討がとくにすすめられた。またイランと日本、ギリシャにおけるエチオピア、ホメロスと古事記、あるいは中国におけるマニ教など、比較研究において、従来あまり照明があてられてこなかった面についての理解がすすんだ。 それらをとおして、たとえば「常世」という観念によって日本神話の精神風土をみなおしたとき、熊野を出雲、あるいは伊勢と対比させるなどの作業によって、現世に対比される異界の多層性、多様性があきらかになってきて、そのような多様な異界をたとえばギリシャ神話の理解においても適応しうるとの指摘がなされた。すなわち「幽世」という観念は日本特有のものとおもわれていたが、現世にたいする死者、あるいは神々の世界を世界神話においてかんがえるときに有効であることがわかってきた。 それらを総合して、当該年度は初期の計画における研究目的を十分に達成したとみなされ、つぎの展開をめざして研究をつづけることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
世界神話の二元構造の研究において、世界神話の世界観があきらかにされてきた段階で最終年度にはいままでの検討でのこされた課題とされた問題を追求するとともに、宇宙的世界観の確定ののちに、人間文化の発生とそれにともなう神話が成立したとみなされ、文化・文明の発生を神話学であとづける方向が今後の課題となった。そこで、次年度以降、農耕、金属、繊維などの技術文化、あるいは文芸、絵画などの文化の発生をものがたる神話を検討するにあたり、いままでの二元的世界観の研究と、人間文化にかんする人文神話の研究との橋渡しをする方法をいくつかの研究課題に即して検討する。 すなわち、明暗、生死、異界などの神話が、そこにかかわっている人間を主体とした生活文化を物語る神話に展開するプロセスをあきらかにしてゆくことが今後の課題となってきた。神々の神話から人間の神話へ発展し、人間社会が形成されてくるとともに、神話時代をおえるはずながら、むしろその時代において、神話が記録され、受容されてきた点に注目して、人文神話の成立を二元構造研究の総括としておこなうのである。すなわち神々と人間、自然と文化という最大のテーマが今後の研究の方向となる。 その研究にあたってはフランス、ドイツ、中国など諸外国の研究者との連携をいままで以上にふかめるとともに、言語学、美術、考古学など関連諸領域との連携・共同もすすめられなければならない。古代の文献の精査、現代の伝承の調査、各国の研究者との連携、関連領域との綜合をもっていままでの研究のまとめとつぎの段階への準備とをおこなう。
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