日本の言説における断片的ディスクールは、より高次の全体の一部であるというその本来の意味論的機能を、異なった時代やジャンルに応じて多彩に発揮し、豊かに展開してきた。 9月7日と8日の両日、慶應義塾大学において開催したシンポジウム「断片のディスクール―書翰・草稿・詠草―」においては、日仏双方の研究者が、さまざまな時代の書翰、和歌の詠草、「断片」と自から名乗る言説などを取り上げて、それらが同時代の言説秩序との交渉の中でどのような意味を獲得していくのかを中心に論じ、参加者を交えた共同討議を行った。いまだ取り上げるに至らなかったテクストがあるものの、日本文学において果した断片の意義を通時的に捉え返し、中世から近代にいたる断片の文学史を初めて構想しえたことの意味は大きく、本共同研究の締めくくりにふさわしい成果を挙げたといえる。
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