研究課題/領域番号 |
21242023
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
角谷 常子 奈良大学, 文学部, 教授 (00280032)
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研究分担者 |
冨谷 至 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70127108)
藤田 高夫 関西大学, 文学部, 教授 (90298836)
関尾 史郎 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (70179331)
鷹取 祐司 立命館大学, 文学部, 教授 (60434700)
寺崎 保広 奈良大学, 文学部, 教授 (70163912)
舘野 和己 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70171725)
渡辺 晃宏 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部<平城地区>, 室長 (30212319)
李 成市 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30242374)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 木簡 / 簡牘 / 東アジア / 文書行政 |
研究概要 |
■本年度実施した研究活動 1、研究会を2回開催した。今年度は異なる時代や異なる書写材料における文書行政についての研究成果をとりいれるべく、研究会を計画した。具体的には中国の先秦時代の書写と清代の文書行政、日本では正倉院文書の研究者を招いて、意見交換を行った。 2、9月5日~11日、ストックホルムの国立民族博物館において、楼蘭出土の紙文書と木簡の調査を行った。これら民族博物館所蔵の資料は、紙木併用期における貴重な資料として知られ、すでに研究書や図版も公開されてはいるが、容易に実見する機会が得られず、また図版だけでは得られない情報が多いため、それらを確認することが目的である。実見の結果、図版ではわからなかった紙の色あいや切れ込みの入り方など、興味深い知見が得られ、日本の紙の使い方との比較において、あるいは木簡と紙の使い分けについてヒントを得るとともに、当地の研究者とのさまざまな意見交換を行うことができた。その後、歴史博物館および東洋文化博物館において資料収集を行った。 3、2月に福岡において木簡および関連遺跡の調査及び資料収集を行った。初日は伊都國博物館において木簡の実見を行った後、怡土城に登り、地形や遺構を調査した。2日目は九州歴史資料館にて終日木簡の調査を行った。実物と赤外線を使って細部まで時間をかけて調査することができ、有意義な調査となった。3日目は太宰府ふれあい館にて国分松本遺跡出土木簡の実見調査を行った。その後、太宰府政庁跡、水城・大野城などを見学し、中国の木簡との比較、都城と外交についての意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、各国の木簡学から東アジアの木簡学へ、を目標としている。近年、韓国と日本は学術交流も進み、議論も活発化しているが、それはともに紙木併用期における木簡であることをはじめとした共通点が多いからである。従って共通点のない中国簡牘はほとんど議論の対象にすらならない。本研究は、無紙時代→紙木併用→紙という、書写材料の変遷過程をすべて経験した中国も含めた、そして特に文書行政という切り口を中心として、上述の状況を打破し、東アジア全体で議論できる土台を作らんとしているのである。 そこでまずは研究者相互の知識と認識を深めることから活動を始めた。当初はなかなか議論がかみ合わず、隔たりの大きさを実感することもしばしばであったが、今はかなり近づいていると確信する。 そして次のステップとして、どのようにして「共通の土台」を構築するか、に取り組んだ。そのため、まずはできるだけ実物を見ることを心がけ、韓国・中国・台湾・日本はもちろん、平成24年度はスウェーデンに赴き、木簡や紙文書を実見した。さらに他の時代・異なる書写材料における研究を積極的に吸収するため、そうした分野の研究者を招いた研究会を開いた。こうした活動を通して、我々の知識と認識はかなり深化した。 以上のことを踏まえ、目標達成のための基礎は十分に築かれたものと考えている。また、以上の研究活動を通して、新しい視点、意識化された事柄が提示されている。それらの成果をもとに、さらに研究を発展・深化させることができれば、目標を達成できるものと信じる。
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今後の研究の推進方策 |
研究推進方策としては大きく2つに分けられる。一つは、これまで同様、日本・中国・韓国を中心とした、木簡そのものの扱い方や、木簡を使った文書行政のあり方、及び紙木併用のあり方などを研究することである。そのため、当初の計画通り、国内外における木簡の実地調査や、さまざまな研究者を交えての研究会活動を継続的に行う。 今一つは、相互批判と活発な相互の情報提供である。平成25年度は最終年度に当たるため、成果を出すという目標に向けての計画を立てている。まずは、各自が研究してきた内容を深化させるべく、相互に批判検討するために、密に研究会を開く。こうした研究会においてはこれまで以上に、具体的、実質的な議論を通じて相互批判を行う。本研究課題は、東アジア全体を対象としており、日本・中国・朝鮮といった国の枠内で考えるものではない。従って、他分野の知識を得、研究状況を知る努力をしてきたのであるが、成果をまとめるにあたっては、他分野の具体的な専門知識が必要となる。従って研究会はもちろん、随時必要に応じて、そうした相互の情報提供を積極的に行う。こうした活動を通して各自がまとめた内容は、8月に奈良大学で開くシンポジウムで発表する。このシンポジウムは、我々の研究に対する外部評価という位置づけをしており、日本・韓国・中国から研究者を招き、批判を受ける。ここで得られた批判や意見を参考に、さらに深化させ、最終的に成果としてまとめる。それは中国語版と日本語版を作成して公表する予定である。
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