石器は、更新世人類の行動研究を具体的に行いうる唯一の量的に保証された資料である。環日本海北部地域の石器石材には黒曜石が多く利用されており、しかも黒曜石は原産地推定が比較的可能な分析水準にある。しかしながら、当該地域では遺跡出土資料の具体的分析例に乏しいため、考古学的行動研究が進展を見せていない。そこで、本研究では、EPMAを用いて遺跡出土石器類の原産地を具体的に同定し、その石材消費行動バターンの考古学的分析を行い、民族考古学等の先行研究との比較・総合によって得られた行動戦略モデルを通して、更新世人類社会の形成と変容のプロセスを明らかにすることを目的としている。 本年度は、研究初年度にあたるため、既存の黒曜石原産地推定データのコンパイル作業に着手し、北海道・東北の集成を終了した。資料獲得を意図した北海道北見市吉井沢遺跡の発掘調査を10月に実施し、整理作業を3月に行った。EPMA分析に着手し、特に北海道厚真町モイ遺跡等の原産地再分析では、既存分析とは異なる結果を得た。また、春に東大で研究打ち合わせ会議を行い、秋に首都大にて、公開シンポジウム「黒曜石が開く人類社会の交流」を実施し、全国的な黒曜石研究の事例の検討を行った。
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