本研究では、EPMAを用いて遺跡出土石器類の原産地を具体的に同定し、その石材消費行動パターンの考古学的分析を行い、民族考古学等の先行研究との比較・総合によって得られた行動戦略モデルを通して、更新世人類社会の形成と変容のプロセスを明らかにすることを目的としている。 研究第2年度にあたる本年度は、昨年度に引き続き、各分析項目ごとの研究を継続して実施した。まず分担者を中心として、北海道・東北地方およびロシア極東の遺跡出土黒曜石のEP肌分析を進めた。既存黒曜石原産地推定データのコンパイル作業を継続し、北海道・東北・関東地方といった国内のデータ収集とともに、ロシア・韓国等の国外データの収集を開始した。黒曜石を利用した行動論分析資料の獲得を意図した北海道北見市吉井沢遺跡の発掘調査を、本年度は9月末~10月上旬に行い、整理作業を2~3月に実施した。昨年度に引き続き、5月に東大で公開シンポジウム「黒曜石が開く人類社会の交流II」を実施し、昨年度とは異なる列島各地の黒曜石研究の事例の検討と討論を行った。 10月下旬から11月上旬にかけて、国立極東大学とロシア科学アカデミー極東支部地質学研究所に所属する海外研究協力者と共同で、ロシア沿海州ハサン地域の黒曜石石器群出土遺跡の現地調査と黒曜石原産地の踏査を行った。沿海州で産出する黒曜石は、列島の黒曜石産地とは成因を異にすることが明らかとなり、注目すべき調査成果を挙げることができた。
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