研究課題/領域番号 |
21242026
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏之 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50292743)
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研究分担者 |
和田 恵治 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (50167748)
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キーワード | 考古学 / 先史学 / 黒曜石 / 更新世 / 流通・消費 / 環日本海 / 後期旧石器時代 |
研究概要 |
本研究では、EPMAを用いて遺跡出土石器類の原産地を具体的に同定し、その石材消費行動パターンの考古学的分析を行い、民族考古学等の先行研究との比較・総合によって得られた行動戦略モデルを通して、環日本海北部地域に展開した更新世人類社会の形成と変容のプロセスを明らかにすることを目的としている。 研究第3年度にあたる本年度は、昨年度に引き続き、各分析項目の研究を継続して実施した。まず分担者を中心として、北海道・東北地方およびロシア極東の遺跡出土黒曜石のEPMA分析を進めた。既存黒曜石原産地推定データのコンパイル作業を継続し、東日本を中心とした国内およびロシア・韓国等の国外データの収集に努めた。黒曜石を利用した行動論分析資料の獲得を意図した北海道北見市吉井沢遺跡の発掘調査を、本年度は10月の3週間行い、整理作業を2~3月に実施した。 10月下旬から11月上旬にかけて、明治大学黒曜石研究センターと共同で、アメリカ・ロシア・韓国から黒曜石産地分析を精力的に進めている分析化学者6名を招聘し、国内の分析学者とともに、北海道の黒曜石原産地(白滝・置戸・十勝)の国際巡検を行い、長野県長和町に所在する明治大学黒曜石研究センターで国際ワークショップを開催した。東アジアの黒曜石の産地分析が進むにつれて、産地名称や標準資料の共有が喫緊の課題と成りつつあるため、その問題解決を目指した東アジア最初の試みである。国際巡検で共同で獲得した資料を分割して、参加した各ラボで化学組成を測定し、ラボ間の分析偏差を確認する作業を行った。この成果は、現在取りまとめ中であり、今年度国際誌に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
資料収集と発掘調査はおおむね順調であるが、昨秋実施した国際巡検とWSの成果は、当初予想したよりも大きく、標準資料の共有化に目処がつき、なによりも国際間の研究活動の活性化が展望できたのは、今後の研究に非常に貢献すると思われる。また1月に実施した中国吉林省での資料調査では、現地研究機関が実施した黒曜石原産地遺跡の調査成果が予想よりもはるかに良好で、今年度以降共同研究を実施できる可能性が高くなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究第4年度に当たるため、研究の基礎となる黒曜石産地分析データの一層の充実を図りたい。そのため、研究分担者に加えて、海外研究協力者にも分析を依頼する予定である。また現在国内では実施不可能な原子炉を使用した全岩組成分析をミズーリ大学原子炉センターに依頼中である。このデータは、国内黒曜石の産地別標準資料作成に極めて有効となる。さらに、上記した中国吉林省の黒曜石原産地遺跡は、北海道の大規模黒曜石原産地遺跡群の考古学的状況によく類似しており、比較研究に非常に有効である可能性をもっているため、本年度以降共同研究を本格化させていきたい。これまで日本の黒曜石研究は、国内に閉じた研究填行に終始してきたが、それを国際レベルに引き上げるのが、本研究の目標の一つである。 以上の研究資料を分析・統合し、25年度の研究最終年度には、研究を取りまとめ、研究の完成を目指す。
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