本年度は、以下に述べる4つのサブ・プロジェクトについてそれぞれ予備調査・調査準備を行った。第一のサブ・プロジェクトは、東京大学大学院経済学研究科の岡崎哲二教授・同Julen Esteban-Pretel講師をそれぞれ連携研究者とする「長期の貧困動態に関する構造分析」である。成果としては、日本のTFPの長期趨勢についての展望論文を執筆し、CIRJE Discussion Paperとして公表した。 第二のサブ・プロジェクトは、東京大学大学院経済学研究科の市村英彦教授、経済産業研究所(RIETI)の清水谷諭コンサルティングフェローを連携研究者とし、保険数理モデルの専門家である、エセックス大学金融学部の中田啓之レクチャラーにも協力を依頼して行っている「災害と貧困」プロジェクトである。ここでは、日本と東南アジアにおける災害リスクと人々の災害事前事後の行動に関するミクロデータを整備し、理論的な考察を加えた。成果の一部は、韓国で開催された世界銀行の2010年度年次開発経済学会合(ABCDE Conference)で報告した。 第三のサブ・プロジェクトは、「自殺と貧困リスクの経済分析」である。このプロジェクトでは、元東京大学大学院経済学研究科のYun Jeong Choi講師を連携研究者とし、国立政治大学(台湾)のJoe Chen助理教授を研究協力者として、経済理論の知見とデータによる実証解析という2本の柱から、日本における自殺の決定要因を捉え、有効な政策手段を明らかにする。平成21年度は、これらのメンバーの協力の下で、一部の研究成果がSocial Indicator Researchに刊行され、また日本語の学術雑誌『精神科』に掲載された。 第四のサブ・プロジェクトは、東京大学大学院経済学研究科の市村英彦教授、政策研究大学院大学(GRIPS)・国際開発高等教育機構(FASID)連携教授である大塚啓二郎教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の戸堂康之准教授を連携研究者とする、「アフリカ・アジアの貧困と人間の安全保障」プロジェクトである。ここでは、アフリカとアジアの最貧国における貧困削減に必要な新しい技術と制度を識別するようなプログラム評価の準備を行った。アフリカについてはマラリア対策についての研究会を立ち上げ、3回の研究会を行った。アジアについては、フィリピンの中部ルソン地域を対象として、灌漑整備の貧困削減効果測定のための実験的な手法の検討を行った。
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