多様な状況で政府間財政競争における一連の分析課題を説明する理論モデルを構築した。最初に、中央政府と地方政府間の競争と協調について、国内問題を中心として研究に着手した。ついで、複数政府間の財政活動が多様化し、政府間財政競争が複雑化するメリットとデメリット、および地域経済や国際社会に及ぼす影響を研究した。さらに、EU内での多様化な政府間財政や社会保障制度の競合している実態を調査した。また、財政面、税制面、社会保障面で政府間財政協調の実態やEU内部での財政政策、公共財供給における利害調整、協調のあり方を考察した。そして、競争、分権的な決定メカニズムがもたらす実際上の政府間相克事例およびその対応策について、データ、資料の調査と評価を行った。 とくに、わが国を対象として地方分権、社会保障制度、国際安全保障、地方経済、財政政策を通じた政府間競争を考察した。とくに、移転支出を対象として、地方政府間競争の結果、地方財政にソフトな予算制約が生じる可能性を理論的に考察し、以下のような分析結果を得た。すなわち、有益な公共事業と無駄な公共事業の2つのタイプの公共事業を地方政府が選択できるというモデルで、有益な公共事業による社会資本整備を推進するための、政府間財政のあり方を検討した。道路関連財源のように課税ベースが重複する場合、有益な社会資本整備は過小になりやすい。それを刺激するために、中央政府が一括の補助金を増額することがあり得る。特に、地方分権を財源面から推進する場合、ひも付き補助金から一括補助金へのシフトが有力な選択肢とされている。しかし、一括補助金では、地方政府が無駄な歳出も増加させる誘因があることを示した。さらに、政府間競争の弊害の程度を数値解析や実証分析で検討した。
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