安全保障や地球環境問題など国際公共財供給問題で競争とただ乗りのメカニズムを考察した。また、情報、資金、労働、財・サービスが自由に移動しているときに、国際機関や政府間交渉による協調の枠組みが利害調整メカニズムとして有効なあり方を考察し、国際政府間の関係における財政競争と協調それぞれのメリットとデメリットを比較検討した。とくに、安全保障における事前の準備としての支出をリスク確率軽減対応とリスク発生時の被害軽減対応に分解して、それぞれの需要が所得やリスクの大きさにどう関わるのかを2国モデルで分析した。また、理論面での研究と平行して、実証面でのデータ整備とそれに基づく定量的研究にも本格的に取り組んだ。いくつかの指標(地理的、文化的乖離度、貿易、人、資本の流動性、便益の波及性の程度など)に基づき、政府間で競合する財政支出、課税ベースの程度を推計、整理し、データベースを構築して、最適財政圏の評価を実証的に行った。そして、日本、EUやアメリカ・カナダにおける多様化された政府間財政競合の実態をデータ面で整理するとともに、課税や公共財の多様な競合の実態について国際比較をおこなった。とくに、シミュレーション分析で、安全保障における事前の準備としての支出をリスク確率軽減対応とリスク発生時の被害軽減対応がそれぞれ、経済成長やリスクの大きさとどう反応するのかを、もっともらしいパラメーターを特定して、様々なケースを想定して、数値解析した。その結果、経済成長とともにリスク発生時の被害の大きさがプラスに相関する場合、現実のデータをうまく説明できる数値解析が得られた。これは、複数の政府間での財政面における相互依存関係と付随して生じる競争・協調を、理論的・実証的・制度的に分析するという本研究目的にとって、重要な成果である。
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