研究課題
本研究課題では、「アクティブな知覚」である、能動的な知覚認知機能の発達の解明を目的として研究を行ってきた。その一つが空間を見る能力であり、2012年度は単眼と両眼で空間を見る能力の発達および顔の3次元的な認知の発達について検討した。乳児がどのように空間を知覚しているかを調べる手法として、2つの物体のより近い方へ手を伸ばすという行動を検討する選好リーチング法が知られているが、我々はこの手法を使うには未熟すぎる乳児の奥行き知覚を検討するための新しい手法を提案した。実験では、2つの物体を、縦方向の位置を変えて提示した。このような画面を片目で見たときは、下にある物体が上にある物体よりも近くにあるように見える。同じ画面を両目で見たときは、物体が等距離にあるように見える。実験の結果、単眼条件では両眼条件に比べ、4ヶ月児は下にある(近くに見える)物体をより長く注視した。この結果は、単眼と両眼の選好注視の違いを測定することが、4ヶ月児の絵画的奥行き手がかりへの感受性を調べるのに有効であることを示唆する。また、動きを伴う場合の顔知覚についても検討した。我々は、視線方向(直視)が乳児の3次元的な顔認知を促進するかを検討した。実験では、人工的に作成した顔画像を回転させて提示した。視線がまっすぐこちらを見ている場合とそれている場合で、顔同士の弁別成績を比較した。その結果、乳児は8ヶ月までに、視線が直視のときのみ既知化した顔と新奇な顔を弁別できることが明らかになった。なお、この研究で使用した画像を見ているときの脳活動について、近赤外分光法(NIRS)により計測を行った結果、視線がそれている顔を見ているときに側頭の活動の上昇が見られた。我々の研究は、乳児が3次元的奥行きを持つ顔画像を見ているときに視線方向により脳活動が異なることを初めて明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では、「アクティブな知覚」である、能動的な知覚認知機能の発達の解明を目的として研究を行ってきた。その一つが空間を見る能力であり、2012年度は単眼と両眼で空間を見る能力の発達および顔の3次元的な認知の発達について検討した。まず、我々は若い乳児の奥行き知覚を検討するための新しい手法を提案した。2つの物体を縦方向の位置を変えて提示した。単眼で見たときは、下にある物体が上にある物体よりも近くにあるように見えるが、同じ画面を両眼で見たときは、物体が等距離にあるように見える。実験の結果、単眼条件では両眼条件に比べ、4ヶ月児は近くに見える物体をより注視した。この結果は、単眼と両眼の選好注視の違いは4ヶ月児の絵画的奥行き手がかりへの感受性を調べるのに有効であることを示唆する。次に、動きを伴う場合の顔知覚についても検討した。特に、直視が乳児の3次元的な顔認知を促進するかを検討した。その結果、乳児は8ヶ月までに、視線が直視のときのみ既知化した顔と新奇な顔を弁別できることを示した。なお、近赤外分光法(NIRS)による脳計測の結果、視線がそれている顔を見ているときに側頭の活動の上昇が見られた。本研究は、乳児が3次元的奥行きを持つ顔画像を見ているときに視線方向により脳活動が異なることを初めて明らかにした。以上の研究より得られた成果はNeuroReport、Vision Researchなどの国際学術雑誌に掲載され、海外ではInternational Conference on Infant Studies(ICIS)、国内では日本心理学会など、いくつかの学会で発表した。以上のように、本研究は乳児の注視行動を調べる知覚実験および近赤外分光法(NIRS)を用いた研究成果に基づき、乳児の視知覚の発達過程を明らかにすることに貢献した。したがって、本研究課題の当初の計画は達成されたと言える。
本研究課題では、乳児の注視行動を指標とした知覚実験の研究成果に基づき、特に奥行きや運動情報の処理に関わる乳児の視知覚の発達過程の解明に大きく貢献することができた。しかし、母親顔写真収集に時間を要したため、実験のとりまとめに遅れが生じた。また、新たに見出された分析手法を用いてデータを分析することにより、有益な成果を得られることが判明した。今後は、迅速な計画遂行の為、一層情報収集に力をいれ、新規な実験手法や分析手法を取り入れる。
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http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ymasa/