本研究では、"高赤方偏移で発見されている様々な銀河天体が、近傍宇宙のハッブル系列を構成する銀河の進化経路の一側面を見ているに過ぎない"という仮説を掲げ、銀河の化学力学モデルという武器を駆使して、銀河の発生について詳細な理論模型を構築することでこの仮説を検証する。いわば高赤方偏移天体を内包する銀河系統樹を作り上げることを目標とする。そのために、本年度は標準ACDMモデルによって示唆されるダークマターハローの密度分布の力学的安定性を調べ、そのハローを初期条件としていろいろな質量の銀河進化シミュレーションを行った。ここでは、星やダークマターは自己重力多体系として取り扱う一方で、ガスなどの流体系に関しては有限体積法をベースにしたスキームを採用している。シミュレーションによって得られたライマンアルファ輝線から理論的な輝線強度と空間分布等を算出し、実際の観測データとの直接比較を行った。また、このような銀河進化と銀河中心のブラックホールの進化の関係を検討した。さらに銀河形成の標準的描像のボトムアップシナリオを精査するため、近傍銀河であるアンドロメダ銀河で発見された銀河衝突の痕跡の数値解析をおこなった。これにより、最近近傍で見つかっているライマンアルファ輝線銀河の正体や、遠方銀河で頻繁に起こっているはずのマイナーマージャーを考える上で非常に重要となる知見を得ることができた。
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