バルーン膜への要求項目は液体シンチレータに対する化学的耐性、キセノンバリアー性、光透過性、力学的強度、放射性不純物が少ないこと、そして薄いことである。有力な素材の候補はナイロンとEVOH膜であるが、要求を満たす球形の袋を作るための接着方法は自明ではない。本年度は膜の選定と接着方法の開発研究を中心に行った。カムララドに比べ膜をさらに薄くし(135um->50um以下)、かつ不純物の観点から接着剤を使わない熱溶着を探った。その結果、厚さ15umの延伸EVOH膜同士を無延伸EVOH膜を挿んで熱溶着(インパル溶着)する方法が開発された。ナイロン膜の接着では25um降厚の延伸膜を超音波や高周波で溶着する方法も行ったが、結果的にイシパルス溶着で条件をほぼ満たす接着膜が得られた。これにより、バルーン製作への展望が開けた。しかしEVOH膜には添加剤にカリウムが含まれ、40Kがバックグラウンド除去の際に問題となる可能性が浮上した。ナイロンについてもウランやトリウムのもっと少ない素材を探す必要がある。これらは次年度に解決すべき課題である。以上の研究と並行してバルーンを試作し検出器への設置に向けたテストを行った。稼働中のカムランド検出器に本研究によるバルーンを安全に設置し、キセノンを溶かした液体シンチレータで満たす方法は自明でない。たたみ方や膨らませ方などを検討し、1/4サイズと実機サイズの模擬バルーンを製作しテストを行った。その結果、液注入でバルーンは自然に膨らむ事が確認された。次年度はさらにテストを行うとともに連絡管や吊るし紐のデザインを決定する。また今年度はキセノンの液体シンチレータへの溶解、脱気、溶解後の液体シンチレータの体積変化など気液のふるまいについても基本的なテストを行った。次年度は実機キセノン導入システムの設計を進め最終案にまとめる予定である。
|