前年度までのデータでニュートリノの出ない2重ベータ崩壊(0νββ)のQ値付近にピークをなす事象が見られたが,その位置と形状から0νββの信号ではなく微量の放射性不純物の崩壊事象であることが判明した.候補となる核を調べ,データを解析した結果110mAg(110Ag核の準安定な励起状態)であることが判明した.これを除去するため(1)0.05μmフィルターを用いたキセノン含有液体シンチレータの循環濾過,(2)キセノンの分離回収による液体シンチレータのみのデータ採取,(3)蒸留純化した液体シンチレータでのブランク測定,を行った.(1)は効果がなく(2)では110mAgが残存したが(3)では大きく減少した.そこで(4)ミニバルーン内の液体シンチレータをさらに循環蒸留で継続的に純化し110mAgを十分除去するとともに,回収したキセノンを高性能ガスフィルターおよびキセノン蒸留装置で純化し液体シンチレータに溶解させた後データ採取を行うことにした.不幸にして液体シンチレータの蒸留純化中に地下実験室坑道で火災が発生し作業は中断した.幸い人的および検出器本体の被害はなくシステム復旧後ブランク状態でのデータ採取を再開したが本年度内での純化キセノンを導入したデータ採取はできなかった.今後安全面に一層の注意を払い,純化キセノン導入によるさらなる高感度のデータ採取を行うことが決まっている.解析面ではキセノン回収前までの蓄積データと,有効体積の最適化により0νββ崩壊の半減期の上限値1.9×10^25年(90%C.L.)が得られた.これは競合する米国の実験(EXO-200)の最新結果を上回り0νββ崩壊の最も厳しい制限を与える結果である.さらに76Geの解析で10年以上0νββの発見を主張してきたKKDCクレームを初めて否定する結果も得られた.
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