研究課題/領域番号 |
21244052
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
守友 浩 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00283466)
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キーワード | シアノ錯体接 / 高速エレクトロクロミズム / カチオン経路 / 第一原理計算 / 価数差分分光 / 構造相転移 |
研究概要 |
本基盤研究の目的は、アルカリ金属濃度-温度相図の作成、電圧による物質移動の機構解明、電圧印加による磁性制御、電圧印加による構造制御、の4つである。本年度の成果を列挙する。 (1)一連のニトロプルシド[Fe(CN)_5(NO)]錯体合成し、その構造物性を明らかにした。特に、ネットワークの次元性と熱膨張係数との間に、強い相関があることを明らかにした。 (2)錯体界面におけるイオン移動の機構を明らかにするために、電子移動とイオン移動の同時測定を行った。総合的な解析の結果、電荷中性条件を満たすためにイオン移動は電子移動と同時におこること(ファラデー過程)が明らかとなった。 (3)斜出射深さ分解XAFS分光法で、シアノ錯体エピタキシャル界面における価数状態を明らかにした。エピタキシャル界面をまたいだ、自発的な酸化還元が起こっていることが明らかとなった。 (4)Mn-Feシアノ錯体が、リチウムイオン二次電池の正極材として優れた特性を持つことを明らかにした。 (5)Mn-Feシアノ錯体のリチウムイオン拡散係数を評価し、既存の正極材料に比べて一桁以上大きいことを明らかにした。さらに、ナノ粒子化することにより、1秒での放電速度を実現した。この超高速放電は、大きなリチウムイオン拡散係数とシアノ錯体と電極との間の理想的な電気的接触によるものと考えられれる。(新聞報道された。) (6)Na-Mn-Fe錯体の構造物性を系統的明らかにした。立方晶-三斜晶構造相転移は、Naイオンの秩序-無秩序相転移とみなせることを明らかにした。 (7)Mn-Feシアノ錯体の構造と電位状態をLi濃度の関数として明らかにした。その結果、この材料は構造相転移を伴わない二電子反応を示す系であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究により、シアノ錯体がリチウムイオン二次電池の正極材として優れた特性を持つことを明らかにした。特に、材料のリチウムイオン拡散係数は、既存の正極材料に比べて一桁以上大きい。そのために、既存材料では実現不可能な超高速の放電現象を示す。さらに、本材料において、高速・安定なナトリウムイオン・インターカレーションが可能である。したがって、元素戦略的なナトリウムイオン電池へ展開が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究成果を芽としたいくつかの研究開発の展開が可能である。 1.【電圧駆動型イオンメモリー】イオン移動により遷移金属の価数を制御することができる。これにより、外部電圧(1V程度)により、色、磁性、SHG活性等をON/OFFするスイッチが可能となる。さらに、エピタキシャル成長技術と組み合わせて、全固体化への展開を図る。 2.【ナトリウムイオン電池】本材料は三次元的なリチウムイオン伝導パスがあるため、リチウムイオン拡散係数が大きい。これは、よりイオン半径が大きなナトリウムイオンの伝導が容易であることを意味する。実際、シアノ錯体ナノ粒子において、36秒の放電速度を実現できている。こうしたポリマー型材料系で、ナトリウムイオン電池用の正極材料・負極材料を開発することにより、ナトリウムイオン電池の実現に貢献できる。 3.【放射光を駆使した電池現象の解明】我々は、斜出射深さ分解XAFS分光法で、シアノ錯体エピタキシャル界面における価数状態を明らかできた。動作している電池に対して、斜出射深さ分解XAFS分光法を適用することにより、深さ方向のイオンダイナミクスを実測できるはずである。すでに、電解液中で電圧印加しながら、斜出射深さ分解XAFS分光を実現できている。
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