研究課題
前年度までに行った研究により、スピンゼーベック効果によって生成されるスピン流の起源は、磁性体中の局在スピン(マグノン)と金属薄膜中の伝導電子との間に誘起される熱的非平衡性であることを見出している。本年度は、この原理を応用することで、磁性体に音波(縦波バルク音波や表面弾性波)を直接注入することでもスピンゼーベック効果を励起可能であることを実験・理論の両面から明らかにした。これは磁性体中のマグノン-フォノン相互作用と界面スピン混成コンダクタンスに基づくものであり、様々な試料構造においてこの相互作用を系統的に調べることで、これまで未解明だった強磁性金属中の温度勾配誘起スピン圧の長距離性の微視的起源を明らかにした。また、応用に向けた研究として、スピンゼーベック効果を用いて効果的に熱から電圧やスピン圧を取り出すための試料構造・素子作製プロセスの探索を行った。その結果、塗布技術を利用した全薄膜構造におけるスピンゼーベック効果の観測やアモルファス基板上への高品質磁性絶縁体/金属薄膜複合構造試料の作製、金属薄膜層の複合サーモパイル構造化によるスピンゼーベック信号の増大効果の観測などを実現した。スピンゼーベック効果を用いた熱電発電は、製造プロセスの簡便さや材料コストの面で従来型のゼーベック効果を用いた熱電技術よりも有利であり、本研究で開拓した基盤技術を発展させることにより、全く新しい物理原理によって駆動される熱電発電を実現可能である。
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