本研究は、異方的超流動の典型である、P波超流動3Heの表面や境界に出現する特異な現象を解明するために、ヘリウム液面上の電子や液面下のイオンをプローブとした研究を展開することを目的とする。平成22年度は、イオンプールの伝導度測定による表面束縛状態の直接検出、液面電子や表面下に導入したイオンの電子スピン共鳴の検出、それに加え、超流動4He自由表面で見られた、イオン運動に伴う量子渦生成のメカニズムに関する研究を計画した。超流動ヘリウム3の自由表面直下にはアンドレーエフ表面束縛状態と呼ばれる特異な準粒子状態が存在すると考えられている。その存在を直接観測することを最重要課題とする。今年度は、ヘリウム表面下の負イオンプールの伝導度測定を超流動3He中で行うことをめざし、それを実現することができた。電子バブルと呼ばれる負イオンを表面下に捕獲してそれを液面と平行に動かして、その抵抗を測定する実験である。超流動3Heの温度を直接測定するバイブレーティングワイヤーを導入した。常流動状態において、温度の下降とともに易動度が減少することが確認され、表面からの深さによってその程度が異なることが分かった。このことは以前に我々の測定と符合した結果である。超流動転移温度以下では、表面からの深さに依存する易動度は観測されないが、これまでのバルクヘリウム中の理論とは一致していない。測定は依然として予備的な段階にあり、今後表面からの深さ依存性や磁場依存性などに関して系統的な測定を行う必要がある。一方電子スピン共鳴の実験は光を使う方法が最もエレガントであるという認識にいたり、光学測定を準備している。
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