本研究では、非平衡基礎論の分野にマイクロマニピュレーション技術を導入し、観測と外部操作の概念を取り入れた基礎論の枠組みを展開するとともに、精密実験により新しい非平衡関係式の検証と展開を行うことが目的であった。そのための具体的な課題として、(1)マイクロマニピュレーションを用いた非平衡関係式の検証とマクスウェルの悪魔の実現。(2)動的非平衡状態における微小粒子のダイナミクスの解明とナノスケールの自走粒子やナノモーターの実現。(3)新しい分子マニピュレーション法を用いた非平衡定常状態の統計力学理論の検証を掲げた。以上の課題に対して、(2)のマックスウェルの悪魔の実験に関しては、300nmのコロイド粒子対を用いた実験により、円周上の周期ポテンシャルと一定勾配を重畳したポテンシャルを実現し、リアルタイムフィードバックにより、外部のトルクに逆らってコロイド粒子を回転させる実験に成功した。また、この際の情報・エネルギーの変換関係や、一般化されたJarzynski等式の検証にも成功し、この結果はNature Physics誌に掲載されるとともに、多くのメディアに取り上げられた。さらに、レーザーピンセットを用いた検証実験を行い、前述の実験では実現できなかった速度依存性を測定することに成功した。(2)に関しては、ミクロンサイズの非対称粒子であるJanus粒子を作り、Janus粒子の対でカイラルな接合をしたダブレットに一様な光を照射することで、100rpmで回転する光ローターを作ることに成功した。このメカニズムとして、局所的温度場、界面での速度場の計測を行い理論との一致を得た。この結果は、アメリカ物理学会のViewpointでハイライト紹介された。(3)に関しても、我々が予想した、界面近傍での対称性の破れによる流体効果により、コロイドの集積が我々の予想した分布式と線形領域では実験と良く一致することを確認した。
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