研究課題
地球型惑星上への天体衝突は秒速10kmを超える速度で起きる。このような衝突では固体惑星の主要構成要素であるケイ酸塩でさえも蒸発することが理論的に予想されている。衝撃加熱によって蒸発したケイ酸塩は、巨大衝突による月の起源や、蒸気雲中での生命前駆物質合成において非常に重要役割を果たしたと考えられているものの、ケイ酸塩岩の衝突蒸発の効率やその後の膨張速度は、よく分わかっていない。これは、実験の困難さからケイ酸塩の衝撃圧縮時のエネルギー分配過程を記述する状態方程式が確立されていないことによる。そこで、我々は大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高強度レーザー「激光XII号」を用いて、世界で初めての宇宙速度領域におけるケイ酸塩の衝撃圧縮実験を行った。本計画で導入した時間分解型高速分光計を用いて、衝撃圧縮エネルギー分配過程をその場観測した。得られた発光スペクトルの解析を行い、圧縮中の温度、圧力、及び、断熱解放を経て蒸発した後のケイ酸塩蒸気の温度、電子密度の時間変化を推定した。その結果、今まで考慮されてこなかった衝撃圧縮中の電離による吸熱、及び断熱膨張中の電子再結合による発熱がケイ酸塩の熱力学進化において重要な役割を果たしてる可能性が高いことが明らかになった。この過程を考慮すると衝撃圧縮時に得られるエントロピーが大幅に増加し、ケイ酸塩の蒸発率も大幅に増加する。また電子再結合による発熱はケイ酸塩蒸気の膨張率を変化させると期待される。これらの結果は、従来考えられていた巨大衝突による月形成仮説を成立させる最適な衝突条件を大幅に変化させる可能性を秘めている。
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