研究課題/領域番号 |
21245003
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
西川 恵子 千葉大学, 大学院・融合科学研究科, 教授 (60080470)
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キーワード | 超高感度熱量測定 / Raman散乱 / 相転移 / 構造緩和 / 核磁気共鳴 / 緩和時間 / コンフォメーション変化 |
研究概要 |
イオン液体は様々な特異的な性質を示す。特に熱物性はユニークである。これまで、イオン液体を構成する代表的カチオンである C_n-methyl-imidazolium(C_nmim)を有するイオン液体を試料として、超高感度熱測定と熱・Raman散乱の同時測定から、相転移とそれに連動して起こるコンフォメーションの変化の解明を中心テーマとしてきた。本年度は、さらにNMRの緩和時間測定も精力的に行い、カチオンを構成する個々の原子の動きがどのように相変化を引き起こすかをダイナミクスの観点から明らかにした。構成イオンの極性の高い部分と非極性部分の動的挙動が大きく異なり、このアンバランスなダイナミクスがイオン液体の相挙動を複雑にしていることが明らかになった。 今まで芳香族系のimidazolium骨格を持つ試料が中心であったが、非芳香族系へ拡張した。非芳香族系の環自体の運動が側鎖の運動性とあいまって、相挙動を支配していることを明らかにした。 超高感度熱測定装置を-100℃まだ測定できるように改造したことにより、多くの試料のガラス転位現象も測定できるようになった。本年度は、イオン液体として[C_4mim]Br と[C_4mim]PF_6、分子性物質としてグリセロールを取り扱った。超高感度である特性を生かして、今までには観測されていないガラス転位時に起こる新規な現象を観測することに成功した。 イオン液体[C_4mim]Brの結晶化挙動を詳細に調べ、結晶化時に起こるソフト化を観測した。[C_4mim]Brは液体状態から温度を下げると結晶にならず、ガラスのように固化する。この状態から温度を上げていくと結晶化が起こり、さらに温度を上げると結晶から液体に相転位する。ガラスから結晶に変化する際、一端ソフト化(液化)が起こる。本試料はイオンのコンフォメーションを変えて結晶になる。この構造変化のために自由に動けることが必要で、これが液化として観測される。非常に奇妙な現象で、新たな結晶化の機構解明に興味深い実験例を提示しているものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高感度熱測定は順調に進展し、数多くの試料の熱物性を明らかにしている。同時測定のRaman散乱実験や並行して行うNMRの緩和時間測定を加えることにより、熱の出入りの際にどのような構造変化が起こり、かつ個々の原子の動的挙動が相変化にどのように関係しているかの解明も進んでいる。超高感度の熱測定に加えて、熱挙動をこのように複合的に実験できるグループは、世界的に見ても我々グループのみであり、"only one"の結果を数多く出している。
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今後の研究の推進方策 |
生体試料も加え、『生命現象の熱測定』という新分野を開拓する。
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