「相変化に伴う熱現象」と「2種の液体や超臨界流体の混じり合いによって起こる熱現象」に分けて纏める。 (1) イオン液体は様々な特異的な熱物性を示す。これまで、イオン液体を構成する代表的カチオンであるイミダゾリウム系を試料として、超高感度熱測定と熱・Raman散乱の同時測定から、相転移とそれに連動して起こる立体配座の変化の解明を中心テーマとしてきた。昨年度より、NMRの緩和時間測定も精力的に行い、カチオンを構成する個々の原子の動きがどのように相変化を引き起こすかをダイナミクスの観点からも明らかにした。構成イオンの極性の高い部分と非極性部分の動的挙動が大きく異なり、このアンバランスなダイナミクスがイオン液体の相挙動を複雑にしていることが明らかになった。今年度は、さらに低磁場NMR 装置における19F(質量数19のF)用のプローブをメーカと共に開発し,イオン液体のアニオンの主な構成元素であるFの緩和時間測定を可能とした。これにより,アニオンの動的挙動が相挙動に及ぼす過程を観測する道が開けた。これまでのカチオンのダイナミクスと熱挙動の議論をさらにアニオンのダイナミクスも含めることが出来るようになり、イオン液体の熱挙動に対する理解が大きく進んだ。 [C4mim]Brを試料とした超高感度熱測定で、その結晶化挙動で始めて発見した新規な現象(ガラス状態->ソフト化->結晶化)は、相変化時に立体配座の変化を伴っている他のイオン液体でも共通にみられる現象であることを示した。 (2) 2つの液体を混ぜると、その相互作用により熱の出入りが観測される。混合する量を無限少にしていくことにより(微分的熱力学)、1分子と周囲とのエネルギー的相互作用を明らかにできる。エチルアルコール及びジメチルスルフォキシドの水溶液系に適用し、水と有機物との相互作用の典型である疎水性及び親水性を定量的に表した。
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