本研究は、物質の量子力学的な波の性質が失われて行く過程(デコヒーレンス)を、超音速ジェット中の孤立分子集団、極低温パラ水素固体中の不純物分子、およびバルク固体といった様々な環境下で検証し、分子科学の立場から量子-古典境界に関する理解を深める事を目的としている。 フェムト秒レーザーパルスによってヨウ素分子のB状態ポテンシャル上に振動波束が発生した後に、高強度赤外fsレーザーパルス(decohereパルス)でポテンシャルに動的な歪みを加えることによって、デコヒーレンスの模擬実験を行うことができる。本年度は、このシミュレーター実験の成果の一部(ポピュレーション制御)をNature Physics誌に発表し世界的な反響を呼んだが、位相制御については論文発表のために追加実験が必要であることがわかったので、これを開始した。具体的には、以前は波長800nmのdecohereパルスを用いていたが、これだとイオン化や分子解離などの競合過程が無視できないので波長を1400nmに変更した。既に上述のポピュレーション制御実験において、1400nmでは800nmの場合に比べて競合過程を大幅に低減出来ることがわかっている。 また、液体ヘリウムクライオスタット内に作製した固体パラ水素中の非局在化したバイブロン(vibron)状態に対して波動関数の干渉を制御する事に成功し、論文発表の準備を進めた。
|