金属酵素は高活性・高選択的であるが、構造安定性に欠け応用範囲が狭いなどの欠点も多い。本研究では、ナノ空間材料と金属錯体等の組み合わせにより天然酵素を凌駕する機能をもつ触媒系を開発し、革新的触媒の開発を目指している。本年度はビタミンB12-分岐高分子触媒及びポルフィセン金属錯体の光機能材料開発を行い以下の成果を得た。 1)ビタミンB12-分岐高分子触媒の創製と触媒機能 ビタミンB12の側鎖を化学修飾した化合物を分岐高分子(HBP)に共有結合で連結したB12-HBPを合成した。HBPにB12誘導体は任意の割合で導入することに成功した。本触媒では、B12はHBPの表面近傍に密に結合しており、Co-C結合の開裂により生成するラジカル種のカップリング反応が選択的に進行することを見出した。すなわち、選択的ラジカル二量化反応の開発に成功した。また、B12-HBPの酸化還元挙動を明らかにし、電気化学的活性化による脱ハロゲン化反応を行い、環境汚染物質の一つであるDDTの分解に成功した。本触媒系は環境適合型の触媒システムと言える。 2)ポルフィセン金属錯体の合成と光機能材料への展開 ヘムタンパクの基本構造はポルフィリン金属錯体であり、環状テトラピロール系の生体色素として極めて重要な働きをしている。本研究ではポルフィリンの構造異性体であるポルフィセンに着目し、光機能材料への応用を目指し光化学的挙動を検討した。ポルフィセンはポルフィリンと比較して可視領域に強い吸収をもつと言う特徴があり、可視光を利用した材料への展開が期待できる。ポルフィセンのモリブデン錯体を合成し、可視光によりモリブデンが+5から+4に還元されることを見出した。本反応は可視光を用いた酸素の活性化に利用できる。また、ポルフィセンのスズ錯体を合成し、可視光を利用した光誘起電子移動や光誘起エネルギー移動が効率良く起こることを明らかにした。
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