新しい分子変換手法の開発は、有機合成化学の大きな柱となる非常に重要な課題である。そのため、以前から活発に反応開発が行われてきた。現在も広く利用されている反応の多くに共通する重要な点は、「原子変換効率」が高いことである。実際に反応効率を向上させることが可能であっても、原子変換効率を向上させることは難しい。そのために、新反応・新手法を開発する際には、可能な限り原子変換効率が高い反応であることが望ましい。申請者は低原子価ニッケルに対してカルボニル化合物、イミン、ニトリルなどが配位しやすいことに着目し、酸化的環化や酸化的付加によりニッケラサイクルを効率よく単離・同定するとともに触媒反応への展開を行ってきた。平成22年度は、エノンニ分子とアルキン-分子との[2+2+2]環化付加反応についての研究を展開した。この反応では、4つの不斉炭素を有するシクロヘキセン誘導体が高収率で得られる。また、生成可能な8種類の化合物のうち1種類のみを選択的に与える。また、水素移動型反応としては、ニッケル錯体触媒によるアルデヒドの二量化エステル合成反応の開発を行った。本反応は、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒドの両方に対して有効に作用する。また、反応速度定数は、アルデヒドの濃度に対してゼロ次でありアルデヒドの配位は律速段階に影響を与えていない。ここに示した反応は、原子変換効率が100%である。これは、研究目的に合致した成果が上がっているものと考えられる。さらに、シクロプロピルケトンとニッケル錯体との反応において生じる反応中間体の反応性がその配位形式により大きく影響を受けていることを明らかにした。この知見を基に新たな触媒反応を開発することが可能となった。
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