研究概要 |
新規核酸マテリアルを設計するにはDNAとRNAの正確な二次構造予測が必要である。今回、RNA二次構造形成の核として利用可能な2種類の熱安定なペンタループに関して詳細な熱力学的解析を行った。さらに、RNA結合性タンパク質のアルギニンリッチモチーフと、熱安定なペンタループとの相互作用をin vitroで定量化すると共に、細胞内で相互作用を評価するためのシステムを構築した。一方で、細胞内での長鎖核酸の相互作用を評価するため、分子クラウディング環境における金属イオンおよび水分子との結合性を定量的に解析することを試みた。マグネシウムイオン依存性のハンマーヘッドリボザイムを用いた研究では、その酵素活性が共存するPEG(ポリエチレングリコール)の影響を受け、低マグネシウムイオン濃度における高い酵素活性、至適温度の上昇、ターンオーバー数が増大する現象を見出した。さらに、他の共存溶質の影響を調べることで、リボザイムに対する分子クラウディング効果を金属イオンと水分子の結合の観点から明らかにすることができた(J.Am.Chem.Soc.,131,16881(2009))。Watson-Crick塩基対によって形成されるDNA構造は分子クラウディング環境下では不安定化するが、Hoogsteen塩基対による構造体(J.Am.Chem.Soc.,131,3522(2009))や枝分かれ構造は安定化することが見出され(J.Am.Chem.Soc.,131,9268-9280(2009))、これらの長鎖DNA構造に対する効果は水分子の関与によって説明できることもわかった。さらに、四重鎖の構造体であるi-motif構造に対しても分子クラウディングは安定化効果をもたらし、DNA塩基のpK_a変化が構造安定化の原因であることも明らかにした(Chem.Commun.,46,1299(2010))。これらの結果から、ペンタループや長鎖DNAの高次構造形成に対して、細胞内分子環境は大きな影響を与えるものと推測される。
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