研究概要 |
有機半導体材料のHOMOやLUMOなどのフロンティア軌道の電子構造に加えて,HOMO-LUMOギャップ内にあると考えられる不純物準位や欠陥準位などのギャップ内準位の電子構造は,現実のデバイス特性を理解する上で不可欠である.電気物性を左右するこれらの電子準位の状態密度(以下"フロンティア状態密度"と呼ぶこととする)を直接測定する実験手法を整備し,電子構造測定と同時に電気物性の"その場測定"を行い,観測されたフロンティア状態密度に基づいて,素子の電気物性を解明することを目的とする. 本年度は、上記目的のために必要な個々の要素の準備を進めた。装置的には、電子エネルギー分析器を購入し、既設の真空チャンバーに増設し、光電子収量分光測定の高感度測定と光電子分光測定のための装置の調整を行った。これらの作業と平行して、平成22年度以降に測定を行う系を、あらかじめ既存の手法で調べることも行った。その結果、以下の2点の成果を得た。 (1)現在知られている有機半導体の中で、最もホール移動度が高いルブレン単結晶のバンド分散測定に成功し、ルブレン単結晶の正孔の有効質量が自由電子の0.6倍程度であり、これまでに報告されている有機半導体の中では最も小さく、バンド伝導モデルの枠組みで理解できることを見出した。 (2)有機EL素子に広く利用されるAlq3分子の自発分極現象に関して、成膜時に光照射をしながら素子をつくると、Alq3層の両面に配向分極電荷が発生することに加えて、バルク部分にも一様な電荷密度の空間電荷が発生することを見出した。 H22年度は、これらの系に高感度光電子収量分光と変位電流評価法を適用して、電子構造と素子特性の相関を探索してゆく。
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