研究概要 |
有機半導体材料のHOMOやLUMOなどのフロンティア軌道の電子構造に加えて,HOMO-LUMOギャップ内にあると考えられる不純物準位や欠陥準位などのギャップ内準位の電子構造,現実のデバイス特性を理解する上で不可欠である.電気物性を左右するこれらの電子準位の状態密度(以下"フロンティア状態密度"と呼ぶこととする)を直接測定する実験手法を整備し,電子構造測定と同時に電気特性の"その場測定"を行い,観測されたフロンティア状態密度に基づいて,素子の電気物性を解明することを目的として研究を進めている。 本年度は、昨年度購入した電子エネルギー分析器の調整を進め、光電子収量分光(PYS)測定の高感度測定の整備と、従来感度の装置による有機単結晶のギャップ内の準位の研究を中心に研究を行った。また、平等して変位電流法による電気特性評価、光電子分光による有機界面電子構造評価も進めた。その結果、主に以下の成果を得た。 (1)有機単結晶の標準サンプルであるアントラセン単結晶の清浄表面のPYS測定に成功した。この結晶は真空環境に放置すると表面にサブミクロンスケールの凹凸が生じる。この表面ラフネスに起因するギャップ内準位を観測した。これは、実際の素子の界面における無秩序構造が電子準位を誘起することを唆する。 (2)電子エネルギー分析器の調整を進めた結果、標準サンプルに対して高感度PYS測定が可能となった。また、紫外光電子分光測定をあわせて行うことで、両手法の解析法を検証した。 (3)ギャップ内準位が問題となる系として新たに液体試料系に着目し、液体サンプルの電流検出型PYS測定を行った。また、今後の有機界面の解析にあたって相補的な情報が得られる和周波分光を用いた有機界面解析法も整備した。
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