本研究では、すべての電荷輸送、発光性官能基が共有結合で透明電極に繋がった新たな有機EL素子の創製に取り組んでいる。しかし、現状、十分な特性を有する素子の作製には至っていない。これまでの実験から、特に、ITO電極と高分子鎖を繋ぐ重合開始剤が、うまくSAM膜として形成されているかが、鍵を握っていると考えられる。そのため、昨年度に続き、ITO表面修飾に関して詳細な検討を行った。具体的には、ペンチルトリエトキシシラン(PTES)をITO表面の修飾剤に用い、酸性および塩基性条件下で、H_2O/PTESの比(r)、PTESの濃度(C_<PTES>)を系統的に変化させ、SAM膜の形成状態を調べた。また、ホールオンリー素子、有機EL素子を作製し、その素子特性を調べた。その結果、rおよびC_<PTES>の値により、同じ材料であっても素子特性が大きく変化すること、すなわち、SAM膜形成条件の制御が素子特性向上に極めて重要であることがわかった。さらに重要なことは、昨年度までは塩基性条件下で反応させていたが、酸性条件下でSAM膜を形成させることにより、より優れた特性が得られることに加え、極めて再現性の高い素子が形成できることが示された。これまでは再現性のある素子の作製が困難であったが、本検討により、塩基性条件下で開始剤をITO表面に結合させていたことが、その主たる原因であったと考えられる。また、電子輸送層には、PBDを側鎖に有する高分子の適用を当初考えていたが、正孔ブロック特性に優れないことが明らかとなってきた。そこで種々の材料を検討・合成した結果、優れた電子輸送性と電子注入性に加え、正孔ブロック性をも有するリン系材料を新たに開発することができた。さらに、金属フリーリビングラジカル重合基礎技術(RTCP法)の確立を進めた。今後、これら新たに得られた知見を基に、素子作製に取り組む。
|