研究課題
本研究課題では、SiC基板の熱分解によりグラフェンをエピタキシャル成長する手法を用いて、単結晶グラフェン基板を創製することを目標にしている。平成23年度は、成長技術の向上に加え、将来的にグラフェン基板としての応用を考えた際に重要となる、SiC上エピタキシャルグラフェンの本質的な特性の理解にも取り組んだ。特に、Ar雰囲気で成長させた均一性の高い1層グラフェンを用い、トップゲートを有するホール素子を作製し、その電気伝導特性の詳細な解析から、グラフェン中のキャリア散乱機構を解明したことが大きな成果である。エピタキシャル1層グラフェンの伝導特性を2K程度の低温で調べると、1層グラフェンに特有の量子ホール効果が再現性良く観測でき、キャリア移動度はグラファイトからSiO2上に剥離したグラフェンに匹敵する。更に、到達できる最小のキャリア密度は、SiO2上の剥離グラフェンに比べ1桁程度小さく、エピタキシャルグラフェンが低キャリア密度での物理現象の探索に有望であることが示された。ところが、エピタキシャルグラフェンと剥離グラフェンで、キャリア移動度の温度依存性を比較すると、エピタキシャルグラフェンの移動度は、より低い温度から低下することが示され、その原因が、低エネルギーのフォノンによるキャリア散乱であることが判明した。エピタキシャルグラフェンとSiC基板の界面には、バッファー層と呼ばれる、SiC基板との化学結合により、グラフェン特有の電子構造を失ったグラフェンシートが存在する。バッファー層は、水素原子を基板との界面にインターカレートすると、SiC基板から分離され、グラフェン特有の電子構造を持つようになる。この擬似フリースタンディング1層グラフェンの電気伝導特性を調べたところ、キャリア移動度の温度依存性が小さく、低エネルギーのフォノンがバッファー層を含む界面層に由来することが明らかになった。
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