研究概要 |
本研究では,実社会の多様な構造物,特に回転体や運動体の動ひずみのオンラインモニタリングを可能とし,安全で安心な社会基盤の構築とその健全性評価の実現を目的に,多層カーボンナノチューブ(Multi-Walled Carbon NanoTube:MWCNT)のみを使用し,その配向性を制御して樹脂薄膜中に分散させる技術を開発し,安定した高感度(ゲージ率>1000)の実現と,動ひずみを10ppm以下の分解能で実時間非接触測定する技術とその具体的な測定システムを開発することを目的としている. 本年度は,超高感度(ゲージ率>1000)を実現するための多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の配列制御して二次元ひずみ分布センサ技術と遠隔ひずみ計測技術の確立を目標とした.具体的な成果としては,1)ナノ粒子分散結晶核制御による化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により林立したMWCNTを二次元ひずみ分布計測を可能とする二次元アレイ型電極状に成長させた後,薄膜配線技術を応用して二次元ひずみ分布センサを試作する方法を確立し,試作デバイスの性能を実証した,2)高周波を応用してMWCNTの交流インピーダンスのひずみ起因変化を非接触で計測する方法の確立を目指し,従来比約10倍の感度で遠隔計測が可能である事を実証した.さらに,3)第一原理解析を応用して,カーボンナノチューブの基本構造であるグラフェンシートと,屈曲したカーボンナノチューブの電子伝導特性のひずみ依存性の発現メカニズムを定量的に明らかにし,特に三次元のひずみ場の相互作用でカーボンナノチューブの電子物性が複雑に変化することを明らかにした. 以上,今年度の当初目標を達成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では多層カーボンナノチューブを応用し,安定した高感度(ゲージ率>1000)の実現と,動ひずみを10ppm以下の分解能で実時間非接触測定する技術とその具体的な測定システムを開発することを目的としており,これまでに,理論的に高いゲージ率(>1000)が達成できる事を明らかにし,動ひずみを1ppmの分解能(ゲージ率:400)で測定できる具体的なシステムの提案を完了している.さらに二次元ひずみ分布測定アレイ型センサの試作と性能評価にも成功している事から,当初予定通り研究は順調に進展していると判断している.また,担当学生が学会発表で独創研究賞を受賞したことから,学外からも評価された研究となっているものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き二次元ひずみ分布測定アレイ型センサの試作と高感度化に関する研究を推進し,当初目標を達成することを最優先に研究を推進する.また,開発センサシステムの実用性を高めるために,様々な使用環境を想定し,長期信頼性評価も推進する。
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