研究概要 |
平成23年度は,研究実施計画に従い,平成22年度までの結果を基に,(1)細胞の死滅・増殖過程における物理刺激の生成輸送機構の解明,(2)細胞の死滅および増殖の発現機構の解明による,死滅・増殖を誘導する物理刺激の生成制御法の提案,(3)活性化促進条件の抽出によるプラズマ細胞増殖法の提案,(4)細胞膜中のエネルギー伝達機構を解明について検討した.平成22年度までに,プラズマ流により生成される長寿命化学種の中で過酸化水素(H2O2)が,細胞の不活性化因子であることを明らかにしたが,平成23年度にはH2O2の主たる生成過程が水蒸気と電子の衝突解離によるOHラジカル同士の反応であることを明らかにした.これは,本研究で用いた針-水面プラズマ流において溶存H2O2濃度が放電時間に比例して増大していることが,100%水蒸気中の放電におけるOHラジカルの発光強度と溶存H2O2濃度の相関や,水中放電における溶存水素濃度と溶存H2O2濃度の相関と同じ傾向であることから考察できる.細胞の不活性化において,細胞死の過程はネクローシスが支配することを示したが,細胞周期が分裂期にある細胞に対しては,アポトーシスが誘導できる可能性が高いことを発見した.また,プラズマ流の処理時間を適切に選ぶことで,細胞活性化を促進することを発見した.特に,細胞自体に損傷を与えないような小さい刺激の時に,細胞増殖の可能性が高いことを示した.細胞膜中のエネルギー輸送については,細胞膜を構成するアルカン鎖の長さが異なると,熱抵抗が減少することを明らかにした.これらの成果は,プラズマ医療の基盤となる重要な成果である.
|