研究概要 |
今年度は,本研究課題で当初想定した「生産現場において,ロボットの鋭利なエンドエフェクタ先端が,ロボットの正面に座っている作業者の眼を襲う」リスクについて,昨年度実施した心理学実験の結果に基づいて,まずノンパラメトリック検定を行った.その結果,以下の知見を得た.すなわち,人間の眼部とエンドエフェクタ先端との初期距離が短いほど回避反応時間が短い傾向が見られた.また,回避反応時間には有意に個人差が認められた.つぎに,心理学実験上では参加者の安全に配慮して,ロボットが彼らにい衝突することのないように手前で停止させたが,シミュレーションでは,ロボットの運動を延長させることにより,心理学実験で観測された参加者と同じ運動を行うヒューマンモデルにロボットを衝突させた.このシミュレーションは,心理学実験の結果を外挿するという意味で「外挿シミュレーション」と名づけた.シミュレーション結果から,人間の眼部に衝突してしまうエンドエフェクタの運動条件を導出できることを示した.さらに今年度の研究課題として,人間の眼部における傷害の重篤度を調査するために,ダミー眼を開発した.ダミー眼は,豚の眼球,人工眼瞼およびこれらを動作させる機構等で構成した.人間の回避・軽減動作を考慮して設定した衝突条件の下で,ロボットの鋭利なエンドエフェクタをこのダミー眼に衝突させる実験を実施し,傷害の重篤度を調査した.静的な眼部衝突実験では,衝突位置,衝突角度,開瞼・閉瞼の三つの衝突条件を変化させ,他方,動的眼部衝突実験では,閉瞼に伴って眼球が上転するBell現象を考慮し,眼球が上転しているときにエンドエフェクタを衝突させた.それぞれの条件が重篤度の及ぼす影響を調べたところ,閉瞼の効果が大きいこと,そして,斜め30度,あるいは45度方向からのエンドエフェクタの衝突については,硝子体の脱出が回避できること等がわかった.
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