研究概要 |
本研究課題の主要研究題目である「自己組織化プロセスにより作製される強磁性ナノ接点スピンバルブ磁性体」の磁気抵抗特性,直流電流駆動マイクロ波発振特性,およびそれらの相関について,スピンバルブ構造,磁界,電流等を制御変数とした実験研究を行い,研究協力者(今村裕志)の接点磁気構造および発振についての理論・シミュレーション結果と照らし合わせることで,コヒーレント位相高出力発振を得るための磁性体開発の主導原理となる以下の物理的指針を得ることが出来た。 1.強磁性ナノ接点スピンバルブ磁陸体の磁気抵抗原理は,接点に狭窄された磁壁によるスピン依存散乱(Levy&Zhangのミストラッキング理論)とスピン蓄積で説明可能. 2.高磁気抵抗比を得るためには,ナノ接点を構成する強磁性体の電子伝導におけるスピン分極率(β)を高めることが何より重要である. 3.ナノ接点への酸素等の不純物の混入がβを下げ,結果として磁気抵抗比を下げることを実験より明らかにした.高磁気抵抗比,高出力発振を得るためには,ナノ接点の純度の向上(比抵抗ρの低減)が不可欠. 4.発振原理は,接点に狭窄された磁壁のスピントランスファー振動を駆動源とする複数の接点間のフリー層(スピン波)を介したコヒーレント位相共鳴. 5.複数の強磁性ナノ接点を含むスピンバルブ磁性体では,接点部において高電流密度化が実現され,5~10MHzの狭線幅発振が可能.強磁性ナノ接点スピンバルブ磁性体の優位性を確認. 6.厚いフリー層は磁気渦構造となり,発振周波数~1GHz,実効値にして0.2μWの高出力発振が得られ,かつ5MHzの狭線幅となる.また,強磁性ナノ接点スピンバルブ磁性体では,残留磁化状態;すなわち零磁場を挟んだ極めて低磁場(±400e)で磁気渦構造となり,μW級の高出力発振が得られることを明らかにした. 7.磁気渦構造の発振もSlavinのAuto-Oscillationモデルで定量的に説明可能であることを明らかにした.高出力化,高発振エネルギー化には,高磁気抵抗比に加え,低閾値電流が有効.
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