研究課題/領域番号 |
21246078
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松永 信博 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (50157335)
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研究分担者 |
大串 浩一郎 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00185232)
小松 利光 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), その他 (50091343)
山田 文彦 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (60264280)
多田 彰秀 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90144328)
千葉 賢 四日市大学, 環境情報学部, 教授 (90298654)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 沿岸海域環境 / 有明海 / 諫早湾 / 諫早干拓事業 / 水質環境 / 底質環境 |
研究概要 |
将来,実施されるであろう諫早湾開門調査を念頭に,湾内の水質・底質環境に関する詳細な実態調査を行い,開門後の変化を解明するためのベンチマークとなり得る環境データ収集し,現況環境特性を明らかにした.得られた成果は,1)九州農政局が測得している水質の同時多点常時観測データを解析し,諫早湾内の低酸素水塊の発生と発達プロセスを調べた.その結果,諫早湾内の低酸素水塊は小長井沖付近で発生し,諫早湾全体に大規模化する傾向にあることを明らかにした.また,小長井沖の水塊が高酸素状態にあれば,約90%の確率で諫早湾全域は高酸素状態にあること,排水門近くの水塊が低酸素状態にある場合,約70%の確率で諫早湾全域は低酸素状態にあることを明らかにした.2)九州農政局が測得しているクロロフィル濃度の同時多点常時観測データを解析したところ,諫早湾内で夏季に発生する赤潮の濃度並びに変動は経年的に減少傾向にあることが明らかとなった.3諫早干拓締切り前後における最も大きな変化は,締切り後調整池の水環境が急速に悪化し,その調整池からの排水を通して,高濃度の有機汚濁物質が諫早湾に流れ込んで環境悪化を引き起こし,更にそれが諫早湾を通して有明海全体に定常的に流れ込んでいることである.シミュレーションにより調整池からの放出される高濃度の有機汚濁物質が有明海全体の環境に大きな影響を与えていることを確認した. 4)本明川流域の過去30~50年間の長期的な環境変化を解析し,気温・流量が上昇傾向に,TN負荷が下降傾向にあることを明らかにした.また,潮受け堤防建設後に調整池のCOD,SS,T-N,T-Pの上昇とDINの減少が確認され,浮遊藻類増殖に適した環境が作り出されていることを明らかにした.5)波作用下での漂砂の鉛直分布や地表面形状ならびに底質内部構造を同時かつ連続的に計測できる非破壊・非接触計測法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(理由)本研究プロジェクトの目的は,諫早湾において将来実施されるであろう南北排水門の開門を睨み,開門後の変化を明らかにするためのベンチマークとなり得るデータを収集することにある.4年間の研究成果は以下の通りで,諫早湾に関してこれまで知られていなかった様々な諫早湾の環境特性の全体像を解明した.1)諫早湾における底泥環境の総合調査を行い,底泥粒径,含有有機物量,酸化還元電位,酸揮発性硫化物,クロロフィルa,フェオフィチン,間隙水中の栄養塩濃度等を測定した.諫早湾奥部における底泥中にはかなりの有機物が堆積し,嫌気状態となり硫酸還元状態が進んでいることを明らかにした.2)溶存酸素濃度(DO)の経時変化と室内実験結果から,諫早湾底泥の酸素消費速度は9.06x10-3m/h程度である.3)諫早湾においては,南南西の風と北北東の風が卓越することを明らかにした.南南西の風は多良岳と雲仙岳によって縮流され,諫早湾上で風速は1.2倍に増加する.4)諫早湾に大規模で強い塩淡成層が形成する.それは筑後川をはじめとして有明海に流れ込む河川水に起因する.5)南南西の風が連吹する時は,諫早湾内の低塩分水塊は有明海側に,北北東の風が連吹する時は,低塩分水塊は諫早湾奥部に輸送される.6)諫早湾では,低酸素水塊は小長井沖で発生し,湾全体に大規模化する傾向にある.小長井沖で低酸素水塊が発生していなければ,約90%の確率で諫早湾全体は高酸素状態にある.一方,潮受け堤防付近で低酸素水塊が認められれば,70%の確率で湾全域が低酸素状態にある.7)潮受け堤防付近に低酸素水塊のフロントが形成される.南南西の風が連吹すると,潮受け堤防付近で低酸素水塊が湧昇する.北北東の風が連吹すると潮受け堤防付近の低酸素化は解消する.8)衛星画像データから,諫早湾・調整池両水域の水温,Chl-a濃度を求める高精度の推定式を構築した.
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今後の研究の推進方策 |
大気・海洋結合モデルの構築:メソスケール気象モデル(WRFV3.0)を用いた解析で得られた有明海上の風応力分布を海洋流動モデルに組み込み,大気・海洋結合モデルを完成させる.また,仮想粒子法を用いて,有明海で生起する塩淡成層構造のシミュレーションを行い,有明海及び諫早湾における大規模塩淡成層の風応答特性をもっと詳細に調べる.さらに,来る開門調査に備え,これまでの研究成果をまとめた報告書を作成し,関係各所に配布する.
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