研究概要 |
70Li_2S・30P_2S_5(mo1%)ガラスを加熱結晶化することによって、超イオン伝導性Li_7P_3S_11、結晶が析出したガラスセラミック電解質を得ることができる。本年度はこのLi_7P_3S_11固体電解質の元素置換を試み、導電率のより一層の向上を目指した。ガラスの合成は遊星型ボールミル装置を用いたメカノケミカル法を用いて行った。3mol%のP_2S_5をP_2O_5で置換することでガラスセラミックスの導電率および電気化学的安定性が向上した。X線回折、ラマン分光、^31P MAS-NMR測定の結果から、置換によってLi_7P_3S_11結晶を構成する構造単位の一つであるP_2S_7^4-ユニット中の架橋硫黄が架橋酸素で置換されていることが示唆された。次にP_2S_5を三価の原子価を有する元素からなるM_2S_3(M=P,Al,B)で置換した。Al_2S_3およびB_2S_3置換の場合では置換によって導電率は単調に減少したが、P_2S_3置換の場合では導電率は増加し、1mol%置換組成で5.4×10^-3Scm-1の極めて高い室温導電率を示した。硫黄欠損を有するLi_7P_3S_11-z結晶の生成が、ガラスセラミックスの導電率向上の一因と考えられる。 硫化物固体電解質は導電率や電位窓の点では優れているものの、大気中における安定性や構造変化については知られていない。そこで硫化物電解質の大気安定性についての知見を得るために、様々な組成のLi_2S-P_2S_5系ガラス電解質について、大気中で保持したときの構造解析を行った。ラマンスペクトルの結果から、75Li_2S・25P_2S_5(mol%)ガラスは大気に一日さらしてもPS_4^3-イオンが主な構造単位として保持されていた。一方、P_2S_7^4-イオンやS^2-イオンを構造中に持つ組成のガラスは、大気にさらすことによってメルカプト基や水酸基を有する構造に変化することがわかった。大気を充填した密閉容器内でガラスからのH_2S発生量について調べたところ、75Li_2S・25P_2S_5ガラスが、他の組成と比較してH_2S発生量が著しく少なく、大気中で比較的安定な電解質であることが明らかになった。
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