研究概要 |
地球環境問題でのCO2排出量削減やエネルギー有効利用の観点から熱電発電・冷却に対する期待が高まり,熱電材料に再び注目が集まっている.実用化を目指して無次元性能指数ZT=1を越える材料の探索が世界的に行われているが,我々は独自にRuやReのシリサイドが示すマルチモルフィズムと名づけた特異な微細組織を制御して良好な熱電特性を付与することを目指している.本年度は,Ruシリサイドでは,特にRu2Si3-Ir系について,Reシリサイドでは,特にReSi1.75-A1,ReSi1.75-P系について,Si副格子の変調組織を伴う3元化合物の固溶範囲を調べ,一連の3元化合物について組成と結晶構造を決定し,熱電特性を調べた.Ruシリサイドでは,Re添加により広い範囲でチムニーラダー相が形成され,Si/(M+Ru)-Mプロット(M=Ir)によりp-n伝導の制御が出来,かなり広い組成範囲の一連のチムニーラダー相が1つの試料に密に形成され,金属副格子の結晶方位は一定に保たれた中でSi副格子の周期が変化するため,電気伝導は阻害されず,熱伝導のみ低下する熱電材料として理想的な界面が多数形成される.Reシリサイドの場合,Reとの価電子数の多寡により空孔濃度を増減させることができ,その結果,シアー構造が欠陥構造として生じる.A1あるいはP添加のようにSiに比べ価電子数の多寡がある場合,同様にシアー構造が生じても欠陥面が異なり,空孔濃度の増減が実現されている.熱電特性の改善にはP添加よりもA1添加が効果的である.このようなマルチモルフ界面では,界面密度が増加するにつれ,フォノンの界面散乱により熱伝導度は低下するものの,電気伝導度は殆んど影響を受けず,性能指数が向上することが確かめられ,マルチモルフィズムを利用したナノ組織制御により熱電特性を飛躍的に向上させることができることを顕示している.
|