研究概要 |
H21年度の研究では,高張力鋼に使用されるマルテンサイトを含む金属組織の鋼材について,水素侵入に関与する水素発生反応機構と鋼中の水素の拡散挙動について検討するとともに,昇温脱離分析装置(TDS)によって水素吸収量と金属組織との関係を調べた。 マルテンサイト,フェライト等の金属組織は,水素発生反応機構,その律速段階および交換電流密度にはほとんど影響を与えないが,マルテンサイトは鋼材中の水素の拡散速度を大幅に減少させる。また,マルテンサイトに含まれる多量の転位が鋼材に吸収された水素のトラップサイトとして働き,水素の吸収量は増加する。微酸性の溶液中でカソード反応により水素を発生させ,鋼材に侵入・透過する水素を裏側の面で電気化学的に検出するDevanathan法により,水素発生量と水素透過速度との関係を調べたところ,カソード分極電位が卑になり,水素発生電流が増加するほど水素の鋼材への侵入効率は低下し,200から300mVの電位低下で侵入効率は約1/10になることが確認された。これは水素が吸収される前段階の吸着水素濃度の電位依存性によるもので,理論的な解析からは,侵入側の電極表面直下の水素濃度および水素透過電流がカソード側のTafel勾配と逆符号で2倍の傾きで増加することが示され,実験的にも確認された。
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