「研究目的」 有機分子薄膜の塗布・乾燥プロセスにおいて形成される有機薄膜の物性を理解し、高性能化を実現するためのプロセス開発を行う。Printed electronicsの分野において必須の研究テーマである。 「研究成果」 塗布・乾燥プロセスに伴う有機低分子ナノ結晶の生成と物性との関連性を明らかにした。蒸着法による有機薄膜を作製し、塗布・乾燥法と比較検討した。その結果、以下のことが明らかになった。 (1)溶解度の大きい有機分子ほどアモルファスになりやすい。 (2)乾燥速度が速いほどアモルファスになりやすい。 (3)溶解度が高く、乾燥速度の速いスピンコート塗布ではアモルファスになりやすい。 (4)XRD解析の結果、結晶内に取り込まれた溶媒分子が存在することが確認され、TG-DTAの結果と一致する。この残存溶媒は性能を劣化させる。 (5)量子化学計算で有機分子と溶媒の組み合わせにおいて、結晶内残存溶媒の量と位置を検討した。 (6)結晶性とバンドギャップの関係を実験的に明らかにした。 (7)有機分子と溶媒と塗布・乾燥条件に性能に関する最適解があることがわかった。 (8)アモルファスな膜は結晶性薄膜に比較して、注入障壁は低いがホール輸送性は劣る。 以上から有機薄膜の特徴として、以下のことが考えられる。有機分子の析出過程が重要で、薄膜の電気特性を左右する。特に、飽和溶解度が低く乾燥速度が速いとアモルファスになりやすい。これは、有機分子の核発生における過飽和度が高く、微結晶(XRD解析結果:数nm)が生成するためと考えられる。逆に飽和溶解度が大きい有機分子は有機層と溶媒層の相分離過程における有機層から溶媒の拡散が律速となり、結晶化速度は遅く、結晶子サイズは大きくなる。この差異が電子物性に大きな影響を与える。
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