本年度の研究目的はゼオライト触媒によるエチレン転化における反応初期と定常状態でのプロピレンの生成機構を解明するため,以下の1)-3)を目的とした。ここで細孔内に生成する炭化水素種は反応初期と定常状態で異なるので,複数の生成経路でプロピレンが生成している可能性が高い。従って反応条件を区別して反応機構を解明した。 1)細孔入り口径,および細孔空洞容積の異なるゼオライトを合成する。 2)細孔内に生成する炭化水素の同定と定量を行ない、プロピレンの生成挙動を調べる。 3)反応初期:1-ブテン共存下で 1 3CH2=13CH2 の転化反応を行ない、13CH6、13CCH6、13CC2H6、および C3H6 の分布を調べ、その分布に及ぼすゼオライト細孔容積の影響を明らかにする。 その結果以下のことが明らかとなった。エチレン転化によるプロピレン生成反応におおいて,プロピレンの選択性はゼオライトの細孔空洞容積によって決定された。このとき,エチレンはゼオライト細孔内の酸性プロトンの触媒作用によってブテンに転化し,ブテンの二量化反応によってオクテンに変化した後,分解反応を起こしてプロピレンを生成した。さらにオクテンの大きさとゼオライトの空洞容積が一致するときに,選択的にプロピレンを生成した。プロピレンの生成がオクテンを経由していることは,ゼオライトの細孔空洞内に生成した炭化水素の分析と1-ブテン共存下で 1 3CH2=13CH2 の転化反応を行なったときのプロピレン分子に含まれる炭素の同位体分布の測定から明らかとなった。前者の実験では,細孔内のオクテン生成量と気相で観測されるプロピレンの生成量が比例関係を示したことから,オクテンを経由してプロピレンが生成すると結論した。
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