本年度は、核内受容体を介して遺伝子領域のエピジェネティック制御を行う化合物4種類を単離し、その解析を進めた。4種類の化合物のうちの一つは、エストロゲンレセプターに結合し、KLF5の転写を制御する低分子物質はPDGFの転写を抑制することによって癌の血管新生を抑制する。その際、当該低分子物質の結合したエストロゲンレセプターは、プロモーター領域に直接結合するのではなく、転写因子であるKLF5に結合し、間接的にPDGFの転写量を抑制することを明らかにした。また、エストロゲンレセプターとダイオキシンレセプターに結合してCHIP遺伝子を制御することによって、乳癌の転移と増殖を抑制する化合物の取得にも成功し、解析を進めた。本化合物は、エストロゲンレセプターまたはダイオキシンレセプターに結合し、これら受容体のDNAへの直接的な結合を介さず、間接的にCHIPの転写量を促進することが出来る。CHIPは、タンパク質のクオリティー管理に関わるタンパク質であり、その機能不全は乳癌の増殖や転移を促進する。本化合物は、CHIPの乳癌細胞中での量を上げることによって、乳癌の増殖と転移を抑制することを明らかにした。また、CHIPの機能解析を進め、タンパク質の品質管理機構の破綻が転写制御の乱れを引き起こし、癌の悪性化に繋がることを明らかにし、現在投稿準備中である。さらに、エストロゲンレセプターに結合してTGFβを制御することにより、乳癌の増殖と転移を強力に抑制する低分子物質を取得し、解析を行った。エストロゲンレセプターはエストロゲンの結合によって乳癌を促進する。本化合物はエストロゲンレセプターの活性を抑制し、かつ、TGFβ系を抑制することによって乳癌の増殖と転移を抑制する。現在、Circulating Tumor Cell(CTC)に対する本化合物の作用を解析している。
|