生体を構成する細胞は、それぞれが正しく分化することにより機能的な組織や器官が形成される。加えて細胞分化は、体内の正しい場所で行われることが重要である(細胞の空間配置)。たとえば生殖細胞や末梢神経の前駆細胞は、発生中の胚内で距離を移動したのちに最終分化地点にたどり着く。もしこれらの移動機構が破綻すると、たとえ生殖細胞や神経が分化したとしても、正常な生理機能の発揮は不可能である。本研究では、生体内における細胞の空間配置がどのように制御されるかを解き明かすべく、特に末梢神経前駆細胞の移動機構に注目して解析を進めている。末梢神経はそのほとんどが神経冠(堤)細胞(Neural Crest Cells ; 以下「NC細胞」と呼ぶ。)に由来する。NC細胞は、神経管の形成と同時にその背側に出現し、その後神経管から遊離して胚内をダイナミックに移動する。移動後に最終地点に到達したNC細胞は、例えば体の表層では色素細胞に、また深部では自律神経(交感神経、副交感神経)や副腎髄質細胞へと分化する。これらの細胞運命地図は40年以上も前に作製されたにもかかわらず、NC細胞がどのようにして胚内を移動し、決まった地点に辿りつくかについてはほとんどわかっていなかった。今年度はNC細胞のなかでも交感神経のサブタイプに注目し、それらの背側大動脈への移動に注目した解析を行った。結果、背側大動脈が産生するBMPシグナルによってその周囲の組織内でNC細胞誘引因子が誘導されること、またNC細胞誘引因子の分子実体は、ケモカインSDF1とNeuregulinである可能性であることなどがわかった。
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