研究概要 |
マレーシアで生まれ育った男子学生10名を福岡市に招待して、九州で生まれ育った日本人男子学生10名との比較検討のための3実験を春に行った。被験者の選考には、両群の最大酸素接収量、皮下脂肪厚、身長、体重に差異が生じないように配慮した。被験者は同一の手技・測定機器と同じ人工気候室を使用して実験を行った。安静時実験:28℃の環境に40分間以上の滞在後身体12部位の温冷覚閾値を測定した。前額の温感受性はマレーシア人の方が有意に高く、一方、手足の冷覚閾値は、マレーシア人が有意に低値を示した。下腿温浴実験:下腿温浴時(42℃60分間)の体温調節応答、特に発汗反応の比較を行った。安静時の直腸温はマレーシア人で高い値を示し,下肢温浴開始とともに日本人で有意に大きく上昇した。総発汗量については両群間の有意差は見られなかったが、マレーシア人では、頭部、大腿部の局所発汗量が少なく、日本人とは異なった局所発汗であることを示唆した。運動負荷実験:高温多湿環境(32℃, 70%RH)において55%最大強度の運動を行った際の熱放散反応の比較を行った。60分間の自転車運動に伴う直腸温の上昇はマレーシア人で有意に小さかったが,局所発汗量,総発汗量に群間の差は見られなかった。皮膚血流量および平均皮膚温はマレーシア人で日本人よりも有意に低値を示した。マレーシア人は有意に高い深部-皮膚温度勾配により,深部から皮膚への熱移動を促進したと考えられた。暑熱環境下での運動時には活動筋と皮膚における血流増加が競合するため,中心部血液量の維持が困難となるが,マレーシア人の示した高い温度勾配による熱移動の促進は,中心部血液量を維持しながら熱放散できる効率的な熱放散反応と考えられた。
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